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ー波乱ー164

「ちょ、お前……何してんねん!」  持っていたジュースを床に落とすと、雄介は望のベッドで望の首を締めている皇志の元へ向かい、二人を引き離した。そうすることで、やっと望は息を吸うことができたらしく、咳と一緒に息を吐き出し、その後一気に空気を肺へと吸い込んだ。 「お前は確か……吉良先生の恋人だっていう奴か?」 「なんで俺のことを知ってるのかは分からへんけど……望にはもうこれ以上、一歩も手出しさせへんぞ!」  がたいのいい皇志と雄介。だが、雄介の方は武道なんかやったことがないと言っていたはずだ。その間、二人の間には妙な空気が流れている。隙を見せたら絶対に入り込まれて、一発ぐらいは喰らうのは分かっているからかもしれない。お互いに視線を外さないようだ。どんな試合でも相手に隙を見せたらそこで負けなのは、二人とも分かっていることなのであろう。  だが、ここはあくまで病室だ。闘うなんてことができる場所ではない。ただ、雄介は望には危害を加えず、取り押さえることだけに集中したいようだ。  そんな時、望が急に、 「雄介!」  そう、なぜか雄介の名前を呼んでしまった。その声に雄介は反応してしまう。その瞬間、皇志はここぞとばかりに雄介のお腹へパンチを一発喰らわせた。  だが雄介の体はそんなにやわではなく、すぐに立ち上がると、 「今はちょっと油断してもうただけやし、打たれてもうたけど……次は容赦せぇへんで……」  そして、雄介は望の方をちらりと見て、何かサインのような仕草を送る。右手で拳を握り、左手でボタンを押すような動作だ。それを見た望は、雄介のサインの意味を理解したのか、笑顔を送り、雄介も頷いた。 「今、めっちゃ……いいパンチ貰ったわぁ……ほなら、次は俺の方から行かせてもらうし、覚悟しぃや……」  今の皇志のパンチで、彼が何か武道でもやっていることに気付いたのだろう。それを分かっていながらも、雄介は余裕のある笑みを浮かべ、闘いを挑む。その姿は無謀とも言えるが、愛する人を守るためならというべきなのだろうか。それとも、雄介には勝算があるというのか。いずれにせよ、雄介には何やら勝てる自信があるようだ。  望は、雄介が皇志と病室内で闘い、時間稼ぎをしている間に、さっきの雄介のサインを実行に移す。  そう、望の携帯はさっき和也に持ってきてもらったのだから、その携帯は望の手元にある。だからきっと、雄介はそれを使って誰かに電話しろと言っていたのだろう。

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