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ー海上ー6

 最近知った近くにある商店街。  この商店街は、昔ながらの温かみのある雰囲気で、まるでタイムスリップしたかのようだ。雄介はこの辺りの商店街ではすっかり顔馴染みになってきている。 「おっちゃん! 今日は何が安いん?」 「そうだなぁ、玉ねぎとか人参とかかな?」 「ほな、今日はカレーに決まりやな!」 「そういうことだよ……お客さん!」 「ほな、玉ねぎと人参とジャガイモな」  いつものように買い物を済ませると、雄介は家へと向かう。  だが、家に帰ると、人の気配が全くしない。しかも、もう暗いのに家の中には灯りも全く点いていない。  先程、望が帰宅しているにもかかわらず、部屋にはまるで誰もいないかのような静けさが漂っている。  雄介が玄関のドアを開けても、部屋内は本当に誰もいないかのように静まり返っている。 「望の奴……どっかに行ってもうたんやろか?」  雄介は一人ブツブツと言いながら、キッチンへと足を運ぶ。 「せやけど、さっき駐車場見た時には望の車あったしな? 望って外に行くとしたら絶対に車使うし」  雄介はそんなことを考えながら、夕飯の支度を始める。  しかし、前の望の家よりも小さくなった一軒家なのに、望の気配が全くしないのはやはりおかしい。まさか、雄介が家を出たのを知って、後をつけて出て行ったのだろうか? それとも、望はそのことを雄介に知られたくなくて、家に戻れないでいるのだろうか?  雄介は料理をしながら、そんなことを考える。  とりあえず夕飯の支度を終えると、二階の寝室の方へと向かう。まずは部屋内を探してから外を探しに行った方がいいかもしれないと考えたのだ。  雄介はゆっくりと階段を上がり、寝室の方へ向かう。  寝室の前まで来ると、ドアを開ける。だが、この部屋にも望の気配はない。電気も点いていないのだから。  今の時間、月明かりだけが窓から差し込んでいる。雄介は電気のスイッチを入れようとしたが、その時、ベッドの上で何かが動いた気がした。  雄介はその動きに反応して体をピタリと止め、静寂に包まれた部屋内からは寝息だけが聞こえてきた。

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