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ー海上ー10

 訳の分からないことを言い出す望。  その答えに転びそうになったのは雄介の方だ。  名前だけとかっていう古典的なギャグなのか、何なのか、そんなことを言い出す望に、雄介は逆に「何をしたらいいのか?」って分からなくなってしまったらしい。 「望……ほんまに大丈夫なんか?」  心配そうに雄介は望の顔を覗き込むように見たが、いきなり望が雄介の後頭部を掴んで、唇にキスをしてきた。  そんな望の行動に顔を赤くしたのは雄介だ。  確かに今まで望とあまりお酒を飲んだことはなかったが、望はお酒を飲むとこんな感じになるのか? と疑いたくなってくる。 「雄介って……可愛いとこあるのな」  普段言わないような言葉に、普段は見せないような無邪気な表情を見せる望に、調子を狂わされるのは雄介の方だろう。  確かに普段の望は、世間でよく言われるツンデレタイプで、冷たい態度の望が当たり前。むしろ、その方に慣れている雄介からしたら、逆に望であって望ではないような気がしているのかもしれない。  いや、前に何度か酒を飲んだ時のことを思い出す雄介。 「あ、そういえば……まぁ、そんな感じだったんやっけな?」  そう独り言を漏らす雄介。  そうだ、望の場合はお酒を飲むと素直になることを思い出したらしい。  だが、たった一口でそんなに熱が上がってくるものなのだろうか?  それでも望が素直になる原因が分かったのだから、それでいいとする雄介。  ただ素直な望についていけばいいだけの話なのだから。  そう決めた雄介は、 「俺だって……お前の前なら、どんな姿でも見せられるで……」 「そうか……んじゃあ、俺も……」  またもや意外な望の答えに、雄介は動揺しそうになるが、深呼吸して上手く動揺を隠したらしい。 「ほなら、俺の言うこと、なんでも聞いてくれるか?」 「ああ……お前の言うことなら、何でも聞くぜ」  どう考えても呂律が回っている望。  しかし、こんなにも素直な望が不思議で仕方がない。 「せやな……ほな……今日、せぇへんか?」  わざと雄介はストレートに望に言った。 「お前とだったら、構わない……」  望の方からそんな素直な言葉が出てきて、さすがの雄介も目を丸くしてしまう。

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