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ー海上ー51

「あんな部屋見せられたら、脳内ピンク色って感じになるしな」  和也と話しても同じようなやりとりが続くと思った望は、後部座席で腕を組んで黙り込んでしまった。  その時、車のドアを叩く音が車内に響く。裕実が来たようだ。 「和也? ドア開けてくれませんか?」  ガラス越しに、裕実独特の柔らかな言葉遣いが聞こえる。和也は彼女の姿を確認し、顔を緩めながらドアロックを解除した。 「和也ー!」  ドアが開くと同時に、裕実は和也の首に腕を回し、力強く抱きしめた。 「おかえり、裕実……疲れただろ?」  和也も優しく返事するように、裕実の唇に自分の唇を重ねる。  二人は、望の存在をすっかり忘れているのか、完全に二人だけの世界に入ってしまったようだ。望はその様子にイライラが募り、さらにむっとした表情で足を組み、ついには貧乏揺すりまで始めた。 「和也? 今日は望さんの所に行くんですよね?急にどうしたんですか?」  裕実はまだ望の存在に気づいていない。いや、もしかすると彼女の目には和也しか映っていないのかもしれない。 「あー、いやな……今日は俺たち休みだったからさ。望と二人で、ちょっとだけ山の方にドライブに行ってたんだ。で、朝、望の家に迎えに行ったら……」  和也はそこで急に笑い出し、話を止めた。裕実は怪訝そうに、後部座席へ視線を向ける。 「もー! 和也さん! 望さんがいるんだったら、先に言ってくださいよー! 僕たち、望さんの前でめちゃくちゃ恥ずかしいことしてたじゃないですかー!」  裕実は顔を真っ赤にして、助手席に座り込む。 「あ、そうか……さっきお前にメールした時、確かに『望の家に行く』とは言ったけど、望がいるとは言わなかったな。それにしても、裕実って本当に顔が赤くなるところが可愛いよな……って、痛てー!」  和也が言い終わらないうちに、裕実は彼の耳を引っ張り、小さな声でささやいた。 「和也! 今の望さんの気持ち、分からないんですか!? 僕にベタベタするのは、僕的には構わないんですが、今日は望さんには雄介さんがいないんですよ!」 「……ったく、わかったよ」

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