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ー海上ー52

 和也は運転席に戻ると、仕方なしに車を走らせた。車内はしんと静まり返っている。望の機嫌が悪いままなのか、彼は黙ったままで、会話に加わる気配がない。裕実も和也のように、この重苦しい空気を打破できるタイプではなさそうだった。  和也はため息をつきながら、話題を変えようと声をかける。 「今日の晩飯どうするー?」 「お前なぁ、飯はさっき食ったばっかだろ?」 「俺は平気なんだけどよ……裕実の方が腹減ったんじゃねぇかと思ってさ」  裕実は和也に笑顔を向けながら答える。 「確かにお腹は空いてますけど、まだ平気かと……」  だが、和也はその笑顔の裏に何かを感じ取ったようだ。 「本当か? 今日、病院の様子どうだったんだ?」 「そりゃ、日曜日でしたから忙しかったですよ! 外来はなかったけど、病棟の方が大変で、ご飯を食べる時間もありませんでした」 「そういうことか……だからお前の顔色が悪いと思ったんだよな」 「和也お得意の誘導尋問ですか?」 「違うだろ! 俺はただ病院のことを聞いただけだぜ。お前が勝手に喋っただけじゃん。俺のせいじゃねぇよ」 「そう言われたら、ちゃんと答えなきゃわからないでしょ? だから話したのに……」 「今はその話はどうでもいいんだよ。俺はお前の体調が心配だったんだ。それで誘導尋問に感じたならごめんな」  和也は信号で車を止めた瞬間、裕実の前髪を掻き上げて額に軽くキスをした。 「ちょ! 和也!」  裕実は再び顔を真っ赤にして、驚いた表情を浮かべる。 「やっぱり、お前は顔色が悪いより真っ赤な顔の方が可愛いよな?」 「でも、顔色が悪いのは変わりませんからね」 「わかってるよ……それより晩飯はどうする? 家で作るか? 望はまだ腹減ってないんだろ?」  望は不機嫌そうに返事をする。 「当たり前だ。俺はお前みたいにがっついてないからな……何事にもな」  嫌味を言い放った望は、再び窓の外に視線を向け、無言で流れる景色を見つめ始めた。  和也はため息をつきつつ、車をスーパーの駐車場に停めると、裕実と望を車内に残し、一人でスーパーの中へと向かった。

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