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ー海上ー53
車の中に残された二人。先に口を開いたのは裕実だった。裕実は望の方を向きながら、柔らかい声で問いかける。
「望さんが機嫌悪いのって、和也のせいですよね?また、和也と喧嘩したんですか? それとも、和也が言ってはいけないことを言ったとか?」
「後者の方だな……」
「やっぱり」
裕実は納得したように小さく息を吐き、目を伏せる。
「確かに和也って、言い方は悪いですけど、いい人ですよね!」
「それは俺も知ってるさ。和也と付き合い始めてもう長いし、あいつがただのアホじゃないってことも分かってる。そこが逆にムカつくんだよな、まぁ、いい意味でだけど。正確には、羨ましいんだよ。何かに縛られずに自由に生きてる感じがさ」
「本当ですね……確かに和也の生き方って、羨ましいです。言いたいことははっきり言えて、でもちゃんと心配してくれるところはあるし、僕も和也と一緒にいてよかったと思いますよ。僕には雄介さんがちょっと不釣り合いに感じますしね。本当に好きだからこそ、楽しく過ごせるんです。望さんも雄介さんと一緒にいると楽しいんでしょう?」
「当たり前じゃねぇか……」
望は裕実の言葉に淡々と答えたが、なぜか和也や雄介の前では顔を赤らめる自分が思い浮かび、少しだけ眉間を寄せた。
「ですよねぇ」
裕実はクスリと笑い、前方に視線を戻す。ちょうどその時、和也が戻ってきたのか、駐車場の向こうから口笛を吹きながら近づいてきた。
「和也が戻ってきましたよ」
「ああ」
和也は車のドアを開け、後部座席に買い物袋を放り込んだ。
「お待たせー!」
「今日の夕飯は何にしたんですか?」
裕実が尋ねると、和也は満面の笑みを浮かべながら答えた。
「ん? 焼肉ー!」
「本当、お前は焼肉が好きだよな?」
「栄養はつけられる時につけておかないとだろ? それに、今日は……」
和也はそこで一瞬言葉を止め、ニヤリと笑った。
望はその笑みに呆れ顔を見せたが、裕実はそのやりとりがよくわからないのか、目をパチクリさせていた。明らかに二人の話についていけていない様子だ。
「和也、お前は楽しみにしてるかもしれないけど……俺はあの部屋を使うのを許した覚えはねぇぞ」
望が少し苛立ちを滲ませて言う。
「はぁ!? 嘘だろー!? な、なー! 望ー! 今日は頼むからあの部屋使わせてくんねぇか?」
和也は軽く焦りながら望に懇願した。
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