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ー海上ー54
和也は望の方に向かって、手を合わせて本気でお願いしているようだった。
「どうすっかな?」
望は、今日の状況を楽しんでいるかのように、和也より優位な立場にいることを意識してか、余裕のある表情を見せる。普段の望では考えられないような光景だ。そんな二人の会話に、裕実は全くついていけていない様子だった。彼の表情からは、和也と望のやり取りがまるで理解できていないことが伺える。
すると突然、望は笑い出し、お腹を抱えながら和也の真剣な顔を指差して笑う。
「お前の顔、ほんっとおっかしいの! マジに真面目な顔して頼んでるんだもんなぁ」
「はぁい!? 一体どういうことなんだよー!」
と和也は困惑した表情を浮かべる。
「分からないのか? たまにはお前をからかってやろうと思ってさ。ダメって言っただけだよ」
和也はため息をつき、安心したように運転席に身を寄せる。
「まったく、そういうことかよー」
その直後、裕実は和也の腕を掴んで訊ねた。
「今、望さんと和也が話していたことって何なんですか?」
「ん? それは、望の家に行ってからのお楽しみー」
和也はウキウキとした様子で、再び車を望の家に向かって走らせる。和也が言わないと決めたら、何をしても言わない性格だと裕実は知っている。それでも裕実は諦めず、後部座席に座る望に向かって笑顔で尋ねてみる。
「望さん! 今の話って一体どういうことなんですか?」
「んー……それは和也に聞いてくれよ。俺の口からは恥ずかしくて言えないようなことだからさ」
ここまで言えば何となく分かるだろ? という顔をする望。もうこれ以上は何も話さないつもりなのか、腕を組み、視線を下に向ける。
「じゃあ、和也!」
と裕実が続けて和也に尋ねる。
「言わないに決まってるだろー! お楽しみなんだからよ」
「じゃあ、ヒントみたいなものは?」
「今、望が言ってたじゃねぇか。『望が恥ずかしくて言えないようなこと』だってさ」
「望さんが恥ずかしくて言えないようなことですか?」
裕実はその言葉に考え込み、腕を組んでしばらく黙り込む。
「……ってことは、和也だったら言えることなんですかね?」
「ああ、俺の方は全然簡単に言えることだけどな」
「じゃあ、雄介さんは?」
「雄介も言えるんじゃねぇのかな? な、望……」
「ああ、そうだな。雄介なら言えることだな」
「それじゃ、全然分かりませんよー! もっとヒントください!」
「んー……これ以上のヒントは逆に難しいんだよなぁ」
と和也は困ったような顔で肩をすくめた。
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