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ー海上ー57
和也は頬を膨らませ、腕を組んで不貞腐れた表情でリビングテーブルに座っていた。その姿は普段の彼とは異なり、望と裕実は思わず笑ってしまった。
「和也ー、それ、可愛いですね。アハハハハー!」
裕実が笑いながら言うと、望も続けて、
「さっきのお笑い番組より、現実の方が面白いかもな」
と笑いを抑えられず、裕実と視線を交わして合図を送った。
それに気づいた裕実は和也のそばに寄り、優しく言った。
「和也……僕のためにお笑い番組を逃してまでご飯を作ってくれてありがとう。僕、そんな和也のこと本当に大好きですからね」
裕実は望からの合図もあり、遠慮せずに自分の気持ちを和也に伝えた。そして、なんと和也の頬にキスをした。
その瞬間、さっきまで不貞腐れていた和也の顔はみるみる柔らかくなり、頬が緩んだ。そして、調子に乗ったのか、裕実の肩に腕を回し、抱きしめながら言った。
「やっぱ、お前にそう言われるとさ、飯作ったかいがあったなって思うんだよな。そうだよな? お笑い番組なんかより、お前の方が大事に決まってるじゃねぇか!」
和也は勢いに任せて立ち上がり、まるで演説するかのように真剣に力説していた。それを聞いて、望と裕実は微笑ましく見守る。
「ま、とりあえず飯の用意は出来たし、食おうぜ……」
和也はそう言って、準備していた料理をテーブルに運び始めた。
望はソファに座りながら、二人の様子をまるで親が子供の成長を見守るような目で見つめていた。その光景に和也は気づき、料理を並べた後に望の方へ視線を向けて声をかけた。
「お待たせ、本当に食べなくていいのか?」
その声に、物思いにふけっていた望はハッと現実に戻され、
「あ、うん……いらね……」
とそっけなく答え、再びソファに寄り掛かった。
和也はその返答に小さくため息をついたが、それ以上は追及しなかった。
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