1030 / 1491
ー海上ー58
「やっぱり、望さんはご飯いらないんですよね?」
そう裕実は、望のことを心配しながら和也に問いかけていた。
「大丈夫なんだろうよ。しかも、もういい大人なんだからさ……自分でお腹が空いたとか分かるだろ? 望はお腹空いてないって言ってんだから、それはそれでいいんじゃねぇのか? それに、食いたくなったら食うんだと思うしな……」
「ですよねー」
和也の言葉に一応は納得するものの、やはり望のことが心配な裕実。
それに気づいた和也は再び望へと声を掛けた。
「なあ、望……俺の方からはもう何も言わないけどさ、裕実がなお前のこと心配してるみたいだぞ」
確かに、和也が言うことなら、望は聞かないかもしれないが、なぜだか分からないけれど、たまに望は裕実の言葉には耳を傾けることがある。
望はその和也の言葉に、和也の方へ視線を向け、ついでに裕実の様子もうかがっているようだ。
その裕実の様子を見て、望は和也の言っていることが本当だと気づいたのか、仕方なさそうに息を吐くと、
「分かったよ……食べる。でも、本当に少しだけでいいからな」
望のその言葉に反応したのは、和也ではなく裕実だった。
裕実はその望の言葉に笑顔を見せると、和也から離れて望の方へ駆け寄った。
「なら、望さん! 一緒に食べましょうよ!」
裕実は嬉しそうに望に告げる。
「ああ、分かってるよ……」
「じゃあ、テーブルの方に行きましょうか?」
裕実は望の腕を引き、テーブルまで連れて行った。
「望もきっと食うんだろうと思って、三人分用意しといて良かったぜ。それに、望……焼肉っていうのはな、一人で食うよりみんなで食った方が楽しいんだぜ」
和也も、望と一緒に食べることになったからか、嬉しそうだ。
「そうですよ……! 一人で食べるより、みんなで食べた方が楽しいんですからー!」
「分かったって……」
そんな会話をしながら三人は席に座り、手を合わせて、
「いただきます……」
三人はほぼ同時に言った。
それに微笑んだのは裕実だ。
「みんな一緒だと楽しいですね」
「裕実ー、早く食べないと先に食っちまうぜー」
「あー! 和也ってば本当に意地悪なんですね! 僕のために用意してくれたんじゃないんですか!?」
裕実からの冷たい視線に気づいた和也は、体をピタリと止めた。
「お前ってたまにボディーパンチ喰らうぐらいの言葉言うよなぁ」
「何がですか? 僕は普通のことを言ってるだけですよ」
ともだちにシェアしよう!