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ー海上ー59

「だから……お前の方が言葉巧みっていうのかー、俺はお前に勝てねぇの……」 「そうなんですか!? 和也にしては意外だなぁ。他の人なら、和也の言葉に負け無しって感じですからねー……」 「まぁ、裕実以外には負ける気がしねぇよ」  そう和也と裕実が会話を盛り上げている中、望は一人黙々とご飯を食べていた。 「望さん……どうしたんですか? その……やっぱり、雄介さんより僕たちでは役不足ですかね?」 「あ、いや……そんなことはねぇよ。お前たちがいてくれるだけで有難いと思ってるからさ」  そう望は隣に座っている裕実に笑顔を向ける。 「本当みたいで良かったですよ」 「今、俺に笑顔を向けながら……本音の方を伺ってたな」 「僕たちはそれも仕事ですからね」  裕実は笑顔で返すが、望はため息を吐く。 「呆れないでくださいよー」 「呆れるに決まってるだろ? プライベートにまで仕事のこと、持ち出すなってーの」 「じゃあ、望……元気出せよ。裕実は今の本音を聞き出したいだけなんだからさ」 「いやさ……雄介はいつものことだけど、今日は昔の友達の命日なんだよな。小学校……いや、幼稚園の時から高校まで一緒だった友達のな」 「……へ? そうだったのか!? そんな話、聞いたことねぇぞ」 「当たり前だ。今までお前たちには言ったことがなかったからな」 「命日ってことは……その、望さんの友達は死んでしまったってことですか?」  裕実はストレートに聞くが、和也は裕実に向かって顔と手を交互に振っている。多分、それは「それは聞いちゃダメだろー」というサインだろう。しかし、望は全然気にしていないようで口を開いた。 「まぁな……俺が死なせちまったような感じなんだけどよ」  その望の意外な言葉に、二人は目をパチクリさせていた。 「望さんが!? え? どうしてですか?」 「今はさぁ、医者として出来るようにはなったんだけど、アイツが死んでしまった当時は、俺が研修終わったばっかでさ。でも、まぁ、アイツがいたから今があるっていうのかな? アイツがいてくれたおかげで、やっぱ患者さんを死なせちゃいけねぇって思って、それなりに勉強してきたんだしな。確かに今もまだまだだけど、俺はアイツ以来、自分が担当した患者さんは死なせてねぇよ」 「確かに……」  そう納得しているのは和也だ。

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