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ー海上ー60
和也は望が言っていた話を知らなかった。今までこうして望と仕事をしてきて、望が一度も患者を死なせたことがないのは事実だ。
「そうだったんですか!? 望さんが優秀なのは、望さんのお父様のDNAではなく、望さんの努力の結果ってことなんですかね?」
「まぁ、多少は親子だからDNAは関係してるとは思うけどよ。努力はしねぇとダメだろうよ」
「……ってことは俺と会う前の話になるのか?」
「ああ、まぁ……そういうことになるのかな?」
「ふぅーん……望が嫌じゃなきゃ、その話聞きてぇんだけど」
和也としては少し遠慮気味に聞いたつもりだったのだが、
「嫌だ……和也には教えねぇよ」
「なんだよそれー。ってことは? 裕実が聞いたなら教えてくれるってことなのか?」
「さぁ、どうかな?」
望の答えに、和也と裕実は視線を合わせ、裕実は和也の視線から言いたいことを察して納得すると、
「じゃあ、望さん……その話、聞かせてくださいよー」
「そうだな……裕実からの頼みだったら教えてやってもいいけどな」
そう望は意地悪げに微笑む。
一方、和也はつまらなそうな顔をしながら望に視線を向けていた。
「本当にそれ、言ってもいいのか?」
望は本当に裕実がその話を聞きたいのか、真意を確かめるためにもう一度裕実に聞いた。
「もちろん! 僕はその話、聞きたいですよ!」
そう聞くと、裕実は前に乗り出してまで言った。
「本当につまんねぇ話だぞ……それでもいいのか?」
「そこは構いませんよ。それに、人の死に普通、楽しい話っていうのはないんですからね」
裕実が言った言葉は確かにそうだった。
望は一つため息を吐くと、話を始めた。
「俺の前の友達ってのは、確かに高校までは一緒だったんだけど、やっぱ大学となると自分がなりたい職業の学校に行くことになるんだろ? だからさ、俺は医大に行ったし、アイツは警察学校に行っちまったから、そこで離れることになったんだ。大学を卒業してからは、二人とも忙しくなってなかなか会えなかったんだけどさ、アイツの仕事は警察官だったから、やっぱ、雄介と一緒で危険を伴う仕事だったんだよな。まぁ、確かに死はいつでも覚悟はしていたんだけど……でも、早過ぎたっていうのかな? それに、俺はアイツと約束してたんだ。そう、アイツが怪我した時には俺が治すってな。 それが、まだ、俺が医者として働き始めたばっかだったんだよ。手術室にアイツが運ばれてきて、『約束だから頼むな』って言って、俺の手を握ってさ。俺の方はまだ自信がなかったんだけど、でも、約束だからな……一応は頑張ってみたんだけど、やっぱり、色々とダメだったんだよな。そう、色々な条件が重なってたせいなのか、アイツは手術中に……」
望はそこまで話すと、望にしては珍しく瞳に涙を溜めていた。
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