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ー海上ー63

「俺、現場に向かう!」 「何、馬鹿なこと言ってんだよ! 関係ない奴が現場に入れるわけがねぇだろうが!」  和也はその望の言葉を聞いて、本当に現場に行こうとしている望の前に立ちはだかる。 「じゃあ、雄介は誰が治すんだよ!」  望は、珍しく和也に向かって怒鳴るように言ってしまっていた。 「お前、どうしたんだ? 今のアナウンサーが言ってたこと、聞いてなかったのか? 確かに『レスキュー隊員が負傷』とは言ってたけど、桜井雄介さんとは言ってなかっただろ? もし今の隊員が雄介だったら、望に連絡が来てもおかしくないんじゃねぇのか? それに、現場からだと俺たちの病院が一番近いんだから、もし負傷した人物が雄介だったら、望の親父さんから連絡が来ると思うけどな」  和也はそう言って、望をソファへ座らせた。  だが、望はまだ冷静ではない。やはり雄介の安否が気になっているのか、珍しく貧乏ゆすりをしている。  だが、和也が言った通り、爆発事故が発生して鎮火したというニュースが流れているにも関わらず、望の携帯は鳴らなかった。  望である裕二からも、雄介からも。  時刻はもうすでに十二時を回っている。 「望……そろそろ寝ようぜ。俺たちには明日もあるんだからさ」  和也の言葉に対して、望は何も答えない。  和也はそんな望に大きなため息を一つつくと、 「お前なぁ、確かに雄介のことも大事なのかもしれねぇけど、患者さんの方も大事だろうが! 何だよ!? お前って、そんなに患者さんのこと何も分かってねぇのか!?」  和也にとって、望の態度には何か引っかかるものがあったのだろう。今まで我慢してきたが、とうとうキレてしまったらしい。  それでも望は上の空で、ただため息を漏らしているだけだ。 「和也も、そろそろ望さんの気持ちを分かってあげてくださいよ~」  裕実は和也の手首を掴んで必死に止めているが、急に和也は裕実の方を振り向いて、 「そんなこと、十分承知してるんだよ!」  和也は、もうイライラの頂点に達していたのか、裕実にも当たってしまった。  その時、望は机を強く叩いて立ち上がると、どこかへ行ってしまう。 「望……?」  今の望には、和也が声を掛けても返事があるわけもなく、部屋には和也と裕実だけが残された。 「和也……望さんのこと、追いかけなくてもいいんですか?」 「いや、大丈夫だろ? 携帯だってそこに置いてあるんだから、外に行くわけじゃないと思うぜ」  和也は机の上に置いてある望の携帯を見つめながら言った。

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