1037 / 1491
ー海上ー65
「まぁ、いい……お前に何もなかったみたいならな」
そう素直に雄介へと伝えると、望は急に気恥ずかしくなったのか、そのまま電話を切ってしまう。
そして、安心したような表情になった望は、気が抜けたのか、洋服やパジャマを着ないままお風呂から出てきたことを忘れてしまったのか、そのままの格好でリビングへ向かってしまう。
その望の姿に、和也と裕実は思わず目を丸くして見上げているが、声は上げずにただ見つめている。
二人の視線が気になった望は、
「どうしたんだ、二人とも……」
と尋ねる。
和也は遠回しに気付いてもらおうとするのか、怒られるのを恐れているのか、
「あ、あのさ……眼鏡かけてないからなのか?」
と訳の分からないことを言う。
それに対し、望は、
「はぁ!?」
と聞き返す。
「あ、あのさ……それ、俺が言っていいのかな? って思うんだけど……いや、言っていいのかな? とも思うしな」
そう言いながら、和也は隣にいる裕実の脇腹を突き、裕実にそのことを言わせようとしているのかもしれない。
その意図に気付いた裕実は、
「望さん……大丈夫なんでしょうか? 雄介さんから電話がかかってきて安心したのは分かりますけど、今の望さんの姿を僕たちの前で晒しても大丈夫なんですか?」
と言う。それを聞いた望は、ようやく自分が洋服を身に纏っていないことに気付き、急いでお風呂場へと向かった。
それから数分後、望は今度はちゃんと洋服を着て戻ってくる。
そして何事もなかったかのように、
「お前らも早く入って来いよ。地下室を使うんだろ? 俺はもう寝るからな」
と和也たちに告げて、自分の部屋へ向かう。
「さーて、俺たちもお風呂に入って、今日は頑張るぞ!」
と和也が言うと、裕実は首をかしげる。
「何を頑張るんですか?」
「ん? ま、いいから……いいから……」
そう言いながら、和也は裕実の背中を押してお風呂場へと向かう。
その後、二人は地下室へ行き、和也は裕実を抱いたということは言うまでもないだろう。
そして次の日。
望たちが出かけた後に、雄介が帰ってくる。
玄関先で鉢合わせた三人。雄介は望の姿を見るなり、望の体を抱きしめる。
「昨日は心配かけてスマンかったなぁ。俺はホンマに無事やし」
「ああ、分かってる」
望は素っ気なく答えるが、やはり嬉しい気持ちを素直に表すことができないのか、雄介の腕の中で顔を上げることはなかった。
「望……悪いが俺たちはもう行かないと!」
「ああ、そうやったな」
ともだちにシェアしよう!