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ー海上ー71

「じゃあ、我慢せずに抱き締めたらいいだろ?」  売り言葉に買い言葉という所であろうか? それとも望にしては珍しく頭で考えずに言葉の方が先に出てしまったという事だろうか。 そして言葉が先に出てしまったという事は、もしかしたら望からしてみたらそれが本心なのであろう。 「望がホンマにええって言うんやったら」  雄介の方はそう言うと、掴んでいる手を自分の方へと引き寄せると、そのまま雄介の体の中へ引き寄せる。 「な……」  雄介の腕の中で顔を真っ赤にさせている望。 「今、望がそう言ったやんか……せやから、今俺は望の事を抱き締めたんやからな」 「だけどさ……ココ人いっぱいいるじゃねーか……」  望は自分から雄介に『抱き締めろよ』と言ったわりには、雄介の腕の中から逃れようとするのだが、やはり雄介の腕の中からはどうやったって逃れられないようだ。  上にも下にも横にも全くもって動く気配がなかった。  と、ラブラブな時を過ごしていた二人だったのだが、急にこの辺りが騒がしくなってきたようにも思えるのは気のせいであろうか。 普通に海の中に入っていても人が沢山いるのだからうるさい位なのだが、それよりも更に騒がしい雰囲気のような気がする。  まさか二人でイチャイチャしているから周りの人間が騒いでいるのかと思ったのだが、どうやらそれは違うようだ。  その周りの空気に望ではなく雄介の方が顔を上げて、今ここで何が起きているのかを確認し始めてくれていた。  今まで自分達の方に多少は視線が集まっていたようにも思えたのだが、それが急に無くなった事にも気付いたようだ。  雄介がこう辺りを見渡していると、砂浜に人が集まっている所がある。 「な、望……? 何かあったんかな? 芸能人でも来てるんやろか?」  そう一見雄介の方はふざけたように言っているのだが、瞳の方は本気というのか真剣な眼差しで人が集まっている場所を見ていた。  望の方もその雄介の真剣な視線につられて、その方向へと視線を向けると、 「雄介! とりあえず、手離せ! これはふざけて言ってんじゃねぇ! 本気で離せって言ってんだっ!」 「あ、ああ……」  雄介は望に言われた通りに、望の体を離すと、 「やっぱり、望もあの場所に何かを感じてるん?」 「当たり前だろー? 何か空気みたいなのが違うからな……」 「ほな、言ってみるか?」 「当たり前じゃねぇか!」  望はそう言ったと同時に、二人は人々が集まっている輪の方へと急ぐのだ。  近くまで来たのはいいのだが、本当にこの人だかりでは中心部で何が起こっているのかが分からない。  雄介の方は普通の人よりも背が高いだけあってか、少し背伸びをすると、どうやらその輪の中の中心部の状況が見えたらしい。 「おい! 望! この中心部の中に急いで行くで!」  その雄介の言葉に、望の方も何かを感じたのであろう。 コクリと頭を頷かせると、雄介は望の手首を取るとその中心部の方へと向かうのだ。

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