1045 / 1491
ー海上ー73
「ま、そうなんやけどな……たまにはな……こう試したくなる時だってあるんやって」
雄介はそう言うと自分の体をシートの上へと横たわらせる。
雄介にしては、どうやら望の方に顔向けができないようだ。
その雄介の様子に、望の方はため息を吐く。
「な、せっかくなんだし、休みを利用してわざわざ海にまで来てんだからさ、楽しんだ方がいいんじゃねぇのか?」
「せやけど、和也達が居らんようになってしもうたしなぁ、俺等だけで楽しんでもええねんやろか?」
「あいつ等なら多分大丈夫だぜ。裕実の方はすぐに息を吹き返したみたいだし、ちょっとだけ検査したら戻って来ると思うしな。ただ、念のために救急車に乗せたようなもんだしな」
「そうなんか!?」
雄介は望にその話を聞いて飛び起きる。
「もしかして、その事知らなかったのか? ってかさ、お前って一応レスキュー隊の一員じゃねぇのかよ。そのくらいの知識はあるんじゃねぇのか?」
「……へ? え? あー、それな……そういう事、とっくの昔過ぎて忘れておった事だわぁ」
「ま、多少位はそういう知識頭に入れておいた方がいいと思うぞ」
「まぁな」
雄介はそう言うものの、雄介だって十分にそういう知識を持ち合わせている。ただ望と喧嘩しただけあって、望の事を持ち上げる感じでそういう風に言ったのであろう。
「ほな、海の方に行きますか?」
「そうだな……これじゃあ、何のためにここまで来たんだかっていうのが分からなくなっちまうしな」
望と雄介はほぼ同時に立ち上がると、人混みを掻き分けて海の中へと入って行くのだ。
だが、望の方はただただ海の中を泳ぎ続けるだけで、雄介とは絡もうとはしない。
雄介の方はただただその望の後をひたすら泳ぎ続ける。
そして二人は海水浴場の泳げる範囲ギリギリの所まで来ると、浅瀬に比べたら人がまばらな事に気付いた雄介は、望の事を背中から抱き締めるのだ。
「望……まさか、わざとここまで泳いで来たんと違うか?」
「んー、まぁな……だってさ、久しぶりにお前と二人きりになれたんだぜ」
「まぁ、そうなんやけどな」
雄介は望の瞳を見つめると、周りに人がいない事を確認し、望のその瞳に吸い込まれるように唇を重ねる。
「なんやろ? 望とホンマ久しぶりにキスしたような気がするわぁ」
「久しぶりに決まってんだろ?」
「ほなら、シたのはいつやったか?」
「あの地下室以来だな」
「そりゃ、望の事を目の前にシたら、したくなるっていうのは当然って事なんか?」
ともだちにシェアしよう!