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ー海上ー77

「あー、もー! 戻るぞ! 人もまばらになってきたし、夕方になってきたしよ」  そう望は照れているのを隠しながら言ったが、確かに望の言う通り、浜辺には先ほどまでいた人々がかなり減っている。そして今の時間になると、そこにいるのはカップルだけになってきた。  太陽も一日の仕事を終え、間もなく水平線へと沈もうとしている。  昼間とは違い、青い空からオレンジ色の空へと変わっていく太陽。 「なんだよー! せっかく海に来たのによ……全然泳げてねーじゃんか!」 「なら、今から海に入るか? 入ってきてもいいんだぞ」 「……ったく。もう、明日でいいって」  和也はそう言うと、望や雄介が片付け始めていたのを手伝い始める。  そして水平線に沈んでいく太陽を背にし、四人は旅館へと帰っていった。  ちょうど四人が旅館に到着すると、すでに料理が用意されていた。  海の近くの旅館だけあって、海鮮料理が並んでいる。 「さすが海の近くの旅館やなぁ? 刺身とかめっちゃ美味そうやんか」  ひとまず四人は部屋でシャワーを軽く浴びて私服に着替えると、テーブルへと座った。 「まぁ、そうだよな」  そして望は急に思い出したかのように手をポンと叩いた。 「何? どうしたん?」 「あのさぁ、久しぶりに雄介に会えたから言うんだけど、俺と和也は来週の水曜日から一週間、親父に言われて、アメリカに研修に行ってこないとならなくなったんだよ」 「和也と二人でか!?」 「そこは仕方ねぇだろ? 俺たちはコンビで動いてるんだからさ」 「あー、そういうことかいな。医者ってホンマに大変なんやねぇ」 「また、親父のイタズラだったりしてな」  望は冗談のつもりで言ったが、 「それがホンマやったら、そこは勘弁してぇなってところやんな」 「なんでだよー」 「雄介……俺ならもう望には手を出す気はねーぞ……」 「そこんところは分かってるんやけど……ま、あー、まぁ……色々不安なところはあんねんけど……気ぃつけて行ってきてな」  雄介はそう笑顔で言ったが、どこか納得いかない表情をしている。 「何がそんなに不安なんだよ」 「色々とや、色々とな……」 「その色々っていうのは何だって聞いてんだけど……」 「乗り物の事故とか、日本人を狙った事件とかなぁ」 「確かにそうだけどさ、俺たちは勉強しにアメリカに行くんだぜ。そうしないと、これから何の病気が流行るのかってわからないだろ? それに、アメリカのほうが医療関係は進んでるんだから、勉強してきた方がいいに決まってるしさ」

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