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ー海上ー78

 望が雄介を説得しても、雄介はまだイマイチ納得していないように思える。 「ほな、なんていうんかな? 何もアメリカまで研修に行かなくてもええんと違う?」 「アメリカだと日本より薬や医療に関して承認されてる薬なんかも早いんだよ。心臓移植もアメリカの方が進んでるしな。それだって、アメリカまでわざわざ運ばなくても、技術さえ学べれば日本でもできるようになるだろ?」  そんなことを言う望に、雄介もやっと納得したようで、 「せやね……やっぱ、そういう所は望達が頑張ってこその所なんやから、まぁ、頑張って研修してきてな。そうそう、俺達がしている仕事っていうのは、そういう大事な仕事やったな。人を救う仕事しとるんやから、勉強とか研修とかっていうのは必要なことやったんやっけなぁ」  雄介は本当に納得したのだろう。箸を手にすると、雄介はご飯を食べ始める。  まさか雄介が望のことをここまで止めるとは、望も和也も思っていなかった。二人は視線を合わせ、首を傾げる。  せっかく羽を伸ばしに旅館に来たのに、望がそんな話を切り出したせいか、楽しい雰囲気が少し失われてしまったように感じる。  夜も、雄介がこんな調子では楽しめないのかもしれない。  食事を終えた四人は旅館内の温泉へと足を向ける。だが、雄介はまだ浮かない顔をしている。  そんな雄介に対し、望はどうしたらいいのか分からず、和也と裕実と一緒に温泉へと歩き始める。 「なあ、雄介のこと、放っておいてもいいのか?」 「大丈夫なんじゃねぇのか?」  いつものように雄介にツンデレな態度を見せる望だが、雄介がこんなに暗い姿を見せるのは本当に久しぶりで、望も気になっているのは確かだ。  そして温泉に着いても、雄介はいつものようにはしゃぐことなく、むしろ静かになってしまっている。  望からすれば、そんな雄介の態度に拍子抜けした感じがするのかもしれない。  望は温泉に浸かりながら、大きな息を吐く。  だが、和也は雄介に近づき、機嫌を取ろうとしているようだ。和也は雄介の肩に腕を回し、 「そんなに心配しなくても大丈夫だって。ただ俺達は勉強しにアメリカに行くだけなんだしよ。それに、一年とかじゃなくて、たった一週間だけなんだぞ。前にお前が大阪に行った時よりも短いんだからな」

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