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ー海上ー86

 人間、何か考えている時というのは自然と上の方を向いてしまうもんだ。今の望はまさにその通りなのかもしれない。 「これが病院でって事なら屋上とか……かな? なんでか屋上ってさ、誰も普段は来ないような所だから落ち着くっていうのかな?」  望がそう言うと、 「なら、屋上の方に行ってみませんか? 温泉に入った後ですし、確かに涼みに屋上に行ったのかもしれませんしね」 「頭を冷やすためにも丁度いい所だしな。見に行ってみるか!」 「はい!」  裕実はそう大きな声で返事をすると、二人はエレベーターを使って屋上へと向かうのだ。  屋上へと繋がるエレベーターが開いた瞬間、海が見える方の柵に掴まりながら夜空を見上げている人物が目に入ってくる。  だが、それは人影っていうだけで、その人物が誰なのかは望達がいる所からは分からない。  望と裕実は一歩ずつその人物へと歩みを進めてみる。  雄介や和也じゃないかもしれないのだが、もしその二人じゃなければ引き返せばいいだけの話であって、近付いて誰かを確認するだけだ。  望達が歩み進んでいる間に、近くにある灯台がその人物を照らし出す。  それとほぼ同時にその人物が望達の方へと振り向いてくれたようだ。多分、誰かが来たことに気配で気付いたのであろう。  それと同時に、裕実はそこにいた人物が探し求めていた人物だと気づき、思わず、 「和也!」  そう口にする。探し求めていた人物だと分かると、裕実は一目散に和也へと駆け寄り、後ろから和也を抱きしめるのだ。 「……へ? 裕実、どうしたんだ?」 「うー、和也! なんで部屋に戻って来なかったんですか? もう、あれから一時間は経ってるんですからねっ!」 「え? あ、ゴメンな……ほら、喧嘩したばっかりだったし、お前が心配してくれてるなんて思ってもみなかったしさ。それに、さっきの事は俺が悪いし、帰るに帰れなかっただけだからさ……ホント、ゴメン……こんなアホな俺でさ」  和也にしては珍しく、顔を俯けてまで謝ってくる。そして何かホッとしたのか、それとも未だに和也は謝罪の気持ちがあるのか、その場に腰を下ろす。  そんな和也に、裕実は和也の目線に合わせて腰を下ろすと、 「和也! 今回のことは気にしないでくださいね! 僕はどんな和也でも好きなんですから。でも、流石に今回のことだけは……でもでもでも! せっかくの休みに和也と離れたくはないっていうのが本音ですから、これから一緒にいませんか?」  その裕実の言葉に和也は顔を上げると、 「ありがとうな……裕実……俺も実は裕実と一緒にいたかったんだよな。でも、やっぱり今回のことは俺の方が悪かったから、なかなか帰りづらくてさ」  和也はそう裕実の方に笑顔を向けると、今まで離れていた分を取り戻すかのように、軽く、そして強く裕実の体を抱き締めるのだ。

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