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ー海上ー88

「ん? 望……こんな所でどうしたん?」 「……って、それはこっちの台詞だ。で、お前の方はこんな所でどうしたんだ?」 「あ!」  と、雄介は今の望の言葉で何かを思い出したのだろう。床の上に座って腕を組み、 「あー、やっぱな……長湯しておったから、逆上せてまったみたいやな」 「それだったらいいんだけどさ、いきなり倒れたんだったら脳梗塞とかもありえるから焦ったぜ……で、倒れた時に頭とか打ってねぇか?」 「多分な……後頭部とかたんこぶになってへんしなぁ。大分前から倒れてたような気もするし」 「なら、大丈夫なのかな?」  望は一応雄介の体や頭に触れてみるが、本当に雄介の言う通り大丈夫なようだ。 「でもさ……」  望は呆れたような表情で続ける。 「もし、俺以外の誰かがお前のことを発見した場合、どうする気だったんだ? 下半身に巻かれてるタオル取れてるみたいなんだけどよ」  だが、雄介はふざけたように、 「なんや、望ってば、まだこの俺のムスコさんのこと、見慣れないのかやぁ」 「ば、ばーかじゃねぇの?! な、慣れるわけがないだろ? そんな恥ずかしいもんをいつまでも晒してんじゃねぇよ。さっさとしまえっ! つーか、平気なんだから早く着替えろよな!」 「……つーか知っておるか? これがお前ん中に挿っておるんやで……」  そう雄介が望の耳元で囁くと、望の顔は茹で蛸のように真っ赤になる。 「そんなこと言ってねぇで、本当にさっさと着替えろよっ!」  望はそう言うと、雄介から少し離れて立ち上がる。  だが、いつもと変わらない様子の雄介に少し安心したのか、雄介には見えない所で軽く微笑む。  着替え終えた雄介は、 「ほな、行こうか?」 「ああ、そうだな」  望は雄介に声を掛けられ、彼の方へ視線を向けると、雄介の浴衣姿に見惚れてしまったようだ。 「……何? どないしたん? 行くで……」  そう雄介に声を掛けられ、慌てて視線を前に向けると、顔を伏せたまま雄介の後に着いていく。  雄介は、望が隣で歩かないことを気にしていないようだ。家ではどうにか隣で歩くようになったが、外では絶対に雄介の隣を歩かない望。  そして部屋に戻る頃には、望もいつもの表情に戻り、和也達と合流する。 「やっと帰って来たんだな……まさか、お風呂場でシてたってわけじゃねぇよな?」 「そりゃな……確かにシたかったんやけど、流石になぁ、出来るわけがないやろ?」  雄介はそう言いながら、和也達とは反対側にあるソファへと腰を下ろす。

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