1072 / 1491

ー海上ー100

 男はそこまで言うと、裕実に向かって頭を下げる。  だが、この男のおかげで船の中に望達がまだいるって事が分かった。 しかし、まだ望達が助かったという情報は聞いていない。  後はもう雄介達に任せるしかないだろう。  雄介達なら必ず望達を見つけ出して助けてくれるのであろうから。  そして、雄介達が乗っているヘリコプターがやっと船が転覆し始めている現場へと到着したようだ。 「アレか……望達が乗ってたっていう船っちゅうんは……。 まぁ、望達はもう地上の方に戻っておる頃やと思うねんけど」  雄介は独り言を漏らしていると、無線が入って来る。 『乗客の方はほぼ全員救助』  だが、雄介はこの無線の言葉に胸騒ぎがしているようだ。 いや、全員が助かったというならば無線でも『ほぼ』とは言わないからだ。  雄介はもう一度無線の方に耳を傾ける。  雑音は沢山入って来ているのだが、雄介は少なくとも『望』という言葉だけは逃してなかったらしい。  雄介の聞き間違えであればいいのだが、もしかしたらただ単に『……を望む』だったらいいのだが。  だが、どうやら雄介の聞き間違いでは無いような言葉が雄介の耳にも入って来る。 『もう一度繰り返す。 要救助者は二名……一人は吉良望さん二十八歳と、もう一人は梅沢和也さん、以上二名だ……』  雄介は知っている名前に一瞬体を硬直させ、顔色までも変えたのだが、息を吐くと、 「……って、何やっとんねん! 何で要救助者になっておるんや!」  雄介はヘリコプターの壁を拳を握り叩くと、ヘリコプターから転覆し始めている船へと降りて行く。  すると船はゆっくりとだが、もう沈み始めて来ているようだ。  船内に水が入り始めたら、望達の命はもたないかもしれない。 もし、まだ船内の何処かに酸素があるような所に居れば、まだまだ助かる可能性はある。 そんな場所に居てくれたら本当にいいのだが、もしもって事も考えなければならないだろう。  雄介は海の中に潜ると船のドアを見つけるのだが、そこはもう水圧で開かなくなってきていた。  それでも雄介は海の中を泳ぎ、何処からか船内に入れそうな所を探すのだが、何処からも入れそうな所がなさそうだ。 「何で入れそうな所がないねん! こっちは命が掛かっておるんやぞ!」  雄介はそうイライラを募らせながら、完全に上向きになってしまっている船の窓から船内の様子を伺う。  すると、たまたま雄介が見た窓から布が漂っているようにも見えるのだが、そこに人がいるようにも見えたのだ。

ともだちにシェアしよう!