そこは流石、望の父親という所であろうか。望の事をよくわかっている。 　望の方はその裕二の言葉にひと息吐くと、 「分かってるよ……だけど、俺には出来ねぇんだよ」 「……出来ない！？」 　その望の言葉に流石の裕二は眉を釣り上げる。 「望……この仕事をしている限り、出来ないって言葉は通用しないよ。例え、今みたいに命に関わらない事だとしても。出来ないじゃない、努力はする。って事をしてくれないとね。それだと血を見るのが怖くて手術が出来ないって言ってるのと同じような事だしね。確かにお前はなんでも出来る医者なのかもしれないのだが、まだ、天狗になるような年ではないんだからね。まだ覚えてもらわないといけない事は沢山あるのだから。まだまだ沢山勉強する事もあるのだしね」 「分かってるって言ってんだろ！　まったく、親父は本当に俺には煩いのな」 「何……そんなに望はカリカリとしているのかな？　私の方は君に普通の事しか言ってないのだけど？」 　裕二は急に立ち上がると望の瞳を見つめる。 「だから、ムカつくんだよっ！　分かってる事を何度も何度も言うからさ！」 　そして望の方は裕二の事を睨み付けるように見上げるのだ。 　そんな望に対して裕二の方はため息を吐く。 「それに、俺の診察の仕方にケチをつけんなよっ！　俺には俺のやり方っていうのがあるんだからさっ！」 「だから、それではダメだって私は言ってるんだけど……？」 「だから、分かってるって！　だけど、俺には出来ねぇんだって！　本当に分からない親父だな」 　このままでは二人の会話は平行線だろう。さっきから同じ事を繰り返しているのだから。 　しかし、その親子喧嘩の合間に挟まれて聞いている和也はどうしたらいいのかわからないようだ。これがもし雄介や望の喧嘩だったら、和也が間に入って止める事は出来るのであろうが、親子喧嘩でもあって望の父親は病院の院長だ。だから、和也の立場からしてこの間では止められないでいた。 「あー！　もういい！　親父とは本当に意見が合わないから、めんどくせぇし……もう、行く！　それと明日は俺達を休みにしといてくれよ。分かるだろ！？　俺は今日の船の事故で眼鏡を無くしてんだ……俺は眼鏡がねぇと診察も手術も出来ねぇんだからよ」 「君ね……まだ、話の方は終わってないのだけど……。ホント、君はめんどくさくなると逃げる癖あるよね？」 　望の方は診察室を出て行こうとしたのだが、その裕二の言葉が図星だったのか、診察室のドアを開け、ドアを強く閉めるとさっさと部屋を出て行く。