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ー海上ー119

「はぁ!? そういう事じゃなくてな……」  きっと望からしてみたら、急に止められてしまって逆に気持ち悪いとも思っているのかもしれない。 だが、望の性格からして雄介にそんな事を言えるはずもなく、 「あー、だからだな……」  そこまでは言えるものの、その先の言葉がなかなか出てこないでいる望。 「何か言いたい事でもあるんか?」  その雄介の言葉に、望は間を置いてチラリと雄介の顔を覗き見ると、 「あのさ……お前……それ、わざと俺に聞いてねぇ?」 「あー、あのな……今日はデートする日やなかったっけかな? っていうのを思い出したんやけど……」  そう言って視線を逸らす雄介に、望は目を丸くしながら軽く息を吐いた。  雄介は、天然というか、時々考えもしないような事を言ってくるタイプだ。 そんな彼に、望は驚いたのかもしれない。 それに、久しぶりの雄介に自分が舞い上がり過ぎたと感じているのかもしれない。  そして望はもう一度息を吐くと、 「なら、なんなんだよ……」 「こういうのは後でのお楽しみって事で……今は望のだけな……」 「……ってな……俺のだけイかせて、お、お前の方は大丈夫なのかよ……」 「そんなん平気やって……!」  そう言って笑顔を向ける雄介だったが、やはり雄介も気持ち的には辛いのだろうか? 表情にほんの少しの無理が見えた。  その様子を見て、望は軽く息を吐いて、 「嘘吐くんじゃねぇよ……お前だって俺と同じ状況なんだからさ……」 「同じ状況って!?」  雄介は本当に今望が言ってる事が分からなかったのだろう、首を傾げている。 「だから、俺と同じくらいしてねぇだろうが……」  そう言って望は視線を外してしまう。 「あー、まぁ、そうやねんけど……?」  雄介もやっと望の言いたい事が分かったようだ。 だが、 「まぁ、まぁ……確かにそうやねんけどな……俺はお前の為やったら全然我慢できるし……」  そう言いながら、雄介は愛おしそうに望の頭を優しく撫でる。  その行動に、望は再びため息を吐いて、 「まったく……お前は俺に優し過ぎなんだよ……そこ我慢するとこじゃねぇだろ? それに俺達の仲ってなんなんだ?」  望はそう言って再び恥ずかしくなってきたのだろうか、布団を頭まで被ってしまう。  布団の中から籠った声で言った望の言葉も、雄介は一語一句聞き逃さずに耳を傾けていた。 「……俺達の仲っていうのは……恋人同士やろ? まぁ、とりあえずな……俺はほんまに望の事が好きなんやって……せやから、望に嫌われたくないからな……自分の気持ちだけで動くつもりはないしな……」 「だから……今日は俺が先に言っただろ?」 「あー、確かにそうやったな……。 せやけど、今日ほんまにええんか?」  雄介は何度もしつこいくらいに望に確認してくる。  その言葉に首を傾げているのは望の方だ。 「そういやな……さっき、帰って来た時に玄関にな……望以外の靴があったんやけど……? ってことは、望以外にもこの部屋におるっちゅう事やろ?」  雄介の突拍子もない言葉に、望は急に布団を剥ぎ取り、辺りを見渡す。 「あ、あー!! やべっ!! 和也が居る事忘れてたー!」  大声で慌てた様子の望に、雄介は冷静に、 「まぁ、その事を急に思い出して止めたんやけどな……。 隣の部屋で和也がまだ寝ておるんやったら、望だけイかせるっていうだけでええねんやろ? ただし、声は抑えてな……」 「はぁ!? 馬鹿な事言ってんじゃねぇよ! 隣の部屋に和也がいるこの状況下で『はいそうですか』って俺が答える訳ねぇだろうが……ほら、支度して行くぞ!」

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