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ー海上ー123

 そして、二人はデパート内にある眼鏡屋へと向かう。  今日は平日だからなのか、デパート内は人がまばらに見える。きっとこれが土日であったなら、もっと人がいただろう。  とりあえず、望にとって今日一番の目的は眼鏡探しなので、すぐに眼鏡屋へと向かい、早速フレームを選び始める。  だが、今の望にとってフレームどころではない。とにかく、一刻も早くフレームを選んで、自分に合ったレンズを入れてもらいたいというところだろう。 「望にはこんな眼鏡が似合うんと違う?」  そう言いながら、雄介は望に黒縁眼鏡を渡そうとするが、 「今は本当に遊んでる場合じゃねぇんだよ。とりあえず、前と同じで縁無しフレームのやつがいいんだけどさ」 「たまにはイメチェンしてみたらどや? ちょっとでええから掛けてみぃって」  望は仕方なく、雄介に渡された眼鏡を掛けてみるが、やはり前に掛けていた縁無し眼鏡の方がしっくりくるようで、 「やっぱり、俺にはそういう眼鏡っていうのは多分似合わないと思うんだよな……だから、いつもと同じにするよ」 「ま、確かにいつもの眼鏡の方がしっくりきてるのかもな」  雄介がそう答えるということは、雄介もその黒縁眼鏡が望には似合わなかったということなのかもしれない。  望は本当にいつもの眼鏡で良かったようだ。それを選ぶと、店員に預けて、出来上がるまでしばらく眼鏡無しで行動するしかなさそうだった。  望は歩きながらため息を吐き、 「ホント、眼鏡がないと不便だな」 「望はいつから眼鏡掛けておるん?」 「中学生くらいの時だったかな?」 「そいじゃあ、もう眼鏡生活長いんやなぁ? 俺なんかは眼鏡に縁が無いって感じやしな。親父もおかんも眼鏡やなかったし」 「ま、眼鏡っていうのは遺伝が一番強いらしいからな……親がそうだったんなら老眼まで掛けなくて良さそうな感じだよな。だけど、老眼っていうのは早いらしいぞ。俺の知ってる人なんか五十代で老眼入ったらしいからな」 「その話、ほんまなん?」  雄介にとっては、その話を初めて聞いたらしく、目を丸くしながら聞いていた。 「ああ……」 「まぁ、ええわぁ。そこはなるようになるしかないって事やもんな? とりあえず、これからどないする?」  雄介は望の手を握り、歩き始める。 「そだな? まだ、俺があんまり歩き回ることが出来ねぇからさ……デパートの上でお茶でもって感じか?」 「せやな……。それが一番安全そうだし、今は眼鏡が無いんじゃあ、水族館や映画に行ってもつまらんやろうしな?」 「ま、そういうことだ。そういうことは眼鏡掛けてからにしてくれねぇか?」 「せやなぁ」  雄介は望の手を引き、望を誘導しながら屋上にあるレストラン街へと向かう。  それから、二人は街並が一望できるレストランでお茶だけを飲み、本当に二人だけの時間を過ごす。

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