1096 / 1491
ー海上ー124
そして眼鏡が出来上がった頃、再び二人は眼鏡屋へと訪れ、やっとのことで望は視界が見える世界へと戻ることができた。
「はぁ……これでスッキリしたぜ。この一日、生きた心地がしてなかったからな。視界はぼんやりとしか見えてなかったしな。今はもうお前の顔までハッキリ見えるんだけど……」
そう言いながら望は雄介に笑顔を向ける。
「それなら良かったな」
その望の言葉に雄介も笑顔を返し、気持ちが軽くなったのか、先に歩き始める。さっきまで手を繋いでいたことが嘘のようだ。
急に手に温もりを感じなくなった望は、さっきまで雄介に握られていた手を一瞬だけ見つめる。すると、先に行ってしまった雄介を追いかけるかのように急ぎ足で彼の元へと向かうのだ。
しかし、先に行ってしまった雄介には何か目的があるのだろうか? 望には何も告げずに、デパートを出て繁華街の方へと足を向けてしまっていた。
確かに、望はこの繁華街を昔から歩き慣れているので知っているが、雄介はこの辺りのことを知らないはずだ。
デパートを出ると、そこは人々が行き交う繁華街。ゲームセンターや映画館も並んでいる。
やっとのことで雄介に追いついた望。
「雄介……どこに行く気なんだ?」
「とりあえず、望の用事は済んだんやろ? それやったら、今度はデートに決まっとるやんか」
「デートって……」
その雄介の一言で、望も思わず意識してしまったのだろう。望はその場で歩みを止め、顔を俯かせる。やっとのことで雄介との距離を縮めたところだったのに、また離れてしまう二人の距離。
雄介は当てもなく歩いていたが、ふと気づくと望の気配が無くなっていたことに気づいた。
人々が行き交う繁華街。歩くのもやっとというほどの混雑の中、一人の人物を探すのは困難だ。
雄介は望が追いついてくるのを数分その場で待っているが、それでも望が来る気配はない。
焦り始めた雄介は、この人混みの中から望の姿を探し始める。
だが、どれだけ目を凝らしても望が来る気配はない。仕方なく、雄介は今来た道を戻りながら望を探すことにした。
こんなことになるのなら、あのままずっと望の手を離すんじゃなかった――と、今さら後悔しても遅い。眼鏡がないときの望のように、しっかりと彼の手を握っておけば良かったと、雄介は思っているのだろう。
ともだちにシェアしよう!