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ー海上ー147

「『壊してしまうかもしれない』とか『前にそれで失敗した』とかさ……」  記憶力がいい望は、さっき雄介が何か言いかけていた事をそのまま口にし、もう雄介に誤魔化せられないようにしたようだ。 「それはやな……」  雄介の方も、そこまで望に言われると誤魔化しが効かないと思ったのか、望から完全に視線を反らして頰を描き始める。 「それは……また、時が来てから話すでええか? 今はまだ……その時じゃないっていうんかな? まだ、その時の傷が癒えてないしな。 まぁ、この傷が癒えて笑って話せるようになったらきちんとそれについて望に話すし」  雄介はそう言って望に笑顔を向けるのだが、望の方は納得はいかないものの、笑顔の奥に見え隠れしている切なそうな表情にこれ以上聞く事はしなかった。  望は仕方なく息を吐くと、 「なら、気にしねぇよ。 誰にだって言えない事っていうのはあるもんなんだからな……それに、俺はそんなに他人の過去について気にしたりもしねぇしな」  そこまで望は雄介に伝えると、気分を変えるかのように、 「んじゃあ、風呂入りに行こうぜ!」 「ああ、せやな……。 ほんま、望ありがとうな……」  そう雄介は望に向かって頭を下げる。 「気にすんなって……」  望はベッドの上に立ち上がったのだが、やはりまだ体の方は疲れているのか足元がフラつき、バランスまでも崩して倒れかけたのだが、そこは雄介が大きな腕で支えてくれたようだ。 「あ、ありがとうな……雄介」  そう感謝の言葉を述べた望だったのだが、何故だか背中にいる雄介は望の事を抱き締めて体を震わせているようにも思える。  望はそんな雄介に不思議に思いながら、もう一度雄介の名前を呼んでみる。 「雄介……どうした?」 「あ、いや……何でもないし」 「だって今……俺の背中で体震わせていたじゃねぇか」 「それは寒かったからやで……」 「馬鹿な事言ってんじゃねぇよ……こんな真夏に『寒い』ってありえねぇだろ?」 「ほら、ココエアコンむっちゃ効いてるやんか……ん……まぁ……とりあえず風呂行こ!」  望はとりあえずそんな雄介にこれ以上突っ込める訳もなく、雄介と一緒に風呂場の方へと向かう。 お風呂から上がると、着替え会計を済ませようとしたのだが、自動で支払う機械がどうも見当たらない事に気づくのだ。  大抵こういうホテルの場合には先にお金を支払うか、お金を払う自動販売機的な物が置いてあるもんだが、それもない。 「何処で支払いをするんやろ? まさか、料金を支払わなくてもええって訳やないやろ?」

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