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ー海上ー153

「ほな、俺の方は……桜井雄介って名前やぁ。まぁ、忙しくて会う暇なんてないんかもしれへんけど、覚えてくれてたらええしな」 「じゃあ、雄兄さんでいい?」  本当に歩夢というのは望とは正反対の性格なんだろう。歩夢の方は素直なタイプだ。 「ああ、まぁ、そこは……ま、まぁ、それはそれで構わへんで……」 「そっか……ありがとう」  まだ歩夢は高校生だけあってか、あどけない笑顔で雄介の事を見上げる。 「ね、雄兄さん……兄さんのどこを好きになったの? 確かに兄さんは写真よりか実物の方が綺麗だけど……」  そのあどけない笑顔の中にこう小悪魔的な感じがあるのは気のせいであろうか? 「俺は……まぁ、望には一目惚れやっただけで……どこか?って言われるとな?」 「へぇー、雄兄さんは兄さんに一目惚れだったんだー。でもさ、僕も兄さんの事が好きなんだけど……いいよね? 僕が兄さんの事好きになっても……実物見てもっと兄さんの事好きになっちゃったしね。出来るなら……」  歩夢はそこまで言うと、雄介の耳側で、 「兄さんの事抱いてみたいかな?」 「そ、それは絶対にあかんって!」  歩夢のその言葉に間髪入れずに雄介は部屋中に響くような大声を上げてしまう。  その雄介の声にビックリしたのは部屋の中にいた裕二と望だ。 「ねぇ、そんなに大きな声上げても大丈夫?父さんに嫌われても知らないよ。もし、雄兄さんが父さんに嫌われたら、雄兄さんは兄さんと別れなきゃならなくなっちゃうんじゃない?」 「それも絶対に嫌や」 「ならさ、僕に兄さんの事抱かせてよ。そしたら、父さんには雄兄さんの事いいように報告してあげるからさ」  その歩夢の言葉に雄介は言葉を詰まらせる。歩夢は確かにまだ子供ではあるのだが、言葉の方は巧みだ。雄介からしてみると言い返せなくなってしまうくらいなのだから。  今また望や雄介の前に新たな人物が現れたのは気のせいなのであろうか。  しかも、その人物は望の弟で、望からしてみたら切っても切れない関係でもある。  雄介は歩夢の話に呆れてしまったのか、歩夢の言葉を無視し、 「あー! 望……行くで!」  と歩夢から逃げるようにして望の手を取ると院長室を出て行く。 「……ちょ、ちょー! 待てよっ! 痛いからさ……無理に俺の手を引っ張るんじゃねぇよ……」  そう望は院長室から出た直後だろうか?雄介から思いっきり振り払うように離す。 「……スマン」  ただ雄介はいつものように明るくではなく暗く謝ってきていた。

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