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ー崩落ー9

 裕実は今まであった事を望へと話す。  すると望は歩夢の方に体を向け、腕を組み、 「お前みたいな奴には一生……幸せなんか来ないからな。 別に俺がお前に狙われるのは全然構わないんだけどよ……裕実には今後一切手出すな! いや、俺の親友に手は出して欲しくなぇんだけどなぁ」  望は本気に真面目に言った筈だったのだが、歩夢の方は何故だか余裕そうな笑みを浮かべて、 「なら、兄さんの事なら遠慮無く狙わせてもらってもいいって事だよね? だって、そういう事なんでしょう? 兄さんが言ってる事はさ……」 「あ、ああ……そういう事だ」  二人の間ではどうやら話はまとまったようなのだが、二人の間にいる裕実が納得いっていない様子だ。  裕実は望との間に入り込むと、望の顔を見上げて、 「ちょっと! 望さん! 何を考えているんですか!? そんなのダメですってばー! 雄介さんが悲しみますよっ!」  裕実は望に向かって一生懸命言っているのにも関わらず、望の方は裕実の意見を軽く流し、裕実の耳側で、 「大丈夫だ。 逆に歩夢には俺一人に絞らせれば、和也も雄介も守りやすいだろ? だからそう言ったんだけどな。 それにお前の事は親友だ。 お前の事、こんな事に巻き込ませる訳にはいかないだろ?」 「でもっ!」  裕実は望に向かい、今にも泣きそうな表情を向けるのだが、とりあえず望がそう言ってくれているのだから、優しく微笑む。 「気にすんな……裕実……」  望はそう言うと、裕実の頭を優しく撫でる。 「分かりました! 望さん! 本当にありがとうございます」  そう裕実は望に向かって頭を下げると、笑顔を望へと向けるのだ。 「さて、行こうか裕実。 それに俺の為にここまで付き合ってくれてありがとうな」  望は裕実にそう言って診察室から出ていこうとしたのだが、 「あのさ……兄さん……」  歩夢は望にそう言うと、出ていこうとしている望の手首を取って、 「話はまだ終わってないんだけど……」  望はその歩夢の言葉にひと息吐くと、歩夢の方に視線を向けて、 「お前はさぁ、今の俺の状況分かってくれねぇのかよ。 悪いんだけど俺の方は相当具合が悪いんだからな……ってか、お前と話なんかしてる場合じゃねぇんだよ。 やっぱりさ、この季節だから今親父に診てもらったらインフルエンザだったって訳さ……だから、話の方は今度からにしてくれねぇか? 今の俺は立ってるのもやっとって感じなんだからな。 治ってからだったらいくらでもお前に付き合ってやるからさ」  その望の言葉に反応しているのは歩夢だけではない。 裕実の方も口を開けたものの、何を望に言ったらいいのか分からないようだ。

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