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ー崩落ー10
望はそんな裕実の様子に気が付いたのか、裕実の背中を押して診察室から再び出ようとしたのだが、そんな望の背中に歩夢が何かを言っている。
「兄さんがそう望むなら……僕としては十分だけどね」
「ま、そういう事だからさ」
望と裕実はやっとの事で歩夢の魔の手から逃れ、診察室前にあるソファにいる和也が安心したような表情で望達の方へと視線を向けて来た。
「やっと、出てきたみたいだな……で、結果は?」
和也は望の顔を見て質問したつもりだったのだが、その質問に望が答える前に裕実が急に走り出し、和也の胸目掛けて飛び込んで行く。 そして急に裕実は和也に向かって声を荒らげ、
「和也! 望さんの弟さんは本当にヤバいですって!」
裕実にしては珍しく慌てたような口調で言った為か、いつものように順序立てて話をしない裕実の言葉に和也の方は首を傾げる。
「……へ? 裕実……今の言葉じゃあ俺には何も分からねぇんだけど?」
「だからですねぇ」
と裕実が和也に話をしようとした直後、和也の視覚には望が倒れそうな姿が目に入ってくる。
「ちょ、裕実……ゴメン!」
和也は裕実にそう言うと、裕実の体から離れ望の体を支えに向かうのだ。
「裕実……話の方は後で聞かせてもらうよ。 とりあえず、望の事を家に連れて行って休ませる方が先だからな」
「分かりました!」
望はそう言うと裕実も望の側へと向かい、裕実と和也は望の両脇で望の体を支えて和也の車が止まっている駐車場へと向かうのだ。
「今日って確か家に雄介いたよな?」
「多分いるかと思いますけど……って、和也! さっきのうちに雄介さんに電話しておかなかったんですか!?」
「連絡するも何も……病院内では携帯はご法度だろ?」
「じゃ、せめて公衆電話を使うとかっていうのは頭になかったんですかね?」
「あ、そこまでは頭になかったわぁ……って、今の時代に公衆電話って頭にあるもんなのか?」
「ほんと、たまに和也って使えない時ありますよね?」
「そこは俺が悪かったって……。 とりあえず、お前は後部座席の望と座って、望の体支えておいてくれねぇか?」
「分かりました……」
裕実はそう言うと、望の体を支えて後部座席の方へと乗り込むのだ。
和也の方も車へと乗り込むと、携帯を裕実へと渡し、
「これで、雄介に電話しておいてくれねぇか? お前と一緒の携帯だから分かるだろ?」
どうやら二人は一緒の携帯にしたようだ。 和也の携帯は青色で、裕実の携帯の色は黒だからだ。
「分かりました!」
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