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ー崩落ー30

「さっきまであんなに食う気なかったのにな。まぁ、今の望にしては結構食った方なんじゃねぇ?」 「お前がうるさいからだろ」  望は和也に文句を一つ言うと、テーブルの上に置いてある薬を口に含み、そのまま布団の中へ潜り込む。  その望の姿に、和也は微笑むと、望が残したお粥を食べ始める。  もう和也はインフルエンザに罹る覚悟をしているからであろうか。それとも食べ物を無駄にしてはいけないと思っているのか。そこのところは分からないが、食べ切ると、 「食べ終わり!」  そう独り言を口にして、布団の中に潜ってしまった望の布団を軽く叩いて階下へ向かうのだった。そんな中、望はどうやら再び眠りについてしまったようだ。  それから数時間後、望が目を覚ますと、辺りは陽が落ち、部屋の中が真っ暗になっていることに気づく。  昼間とは違い、淡く輝く月が部屋を照らしている。 「夜か……」  望は少し切なそうに呟き、テーブルの上にあるリモコンで電気をつける。  だが昨日とは違い、隣には雄介の姿はない。そこで、雄介がいないことにため息を漏らす望。  雄介の仕事は普通のサラリーマンとは違い、二十四時間勤務があり、朝から仕事に行ってしまっている。今の時間に雄介がここにいる訳がないと分かってはいても、その現実に寂しさが募り、孤独感が心を弱くさせたのか、望の瞳には涙が溢れ、それが枕を濡らす。  望はひと息吐くと、時計の方に視線を向ける。時間はもう夜の九時を指していた。  階下からは、和也と裕実がいるのだろう。話し声が聞こえてくる。さらに、誰かが階段を上がってくる音がして、望はパジャマの裾で顔に伝っていた涙を拭う。  誰が来たのだろうか。もしかして、こんな時間に雄介が帰宅してくれたのだろうか。それは部屋に入って来てくれないと分からない。  少し期待しながらも、望は部屋に入ってくるであろう人物を待つ。  だが、部屋に入ってきたのは期待していた人ではなく、やはり和也だった。それに気づき、ため息を漏らす。 「望……大丈夫か?」 「あ、まぁ……ってか、和也だったのか」 「悪かったな、雄介じゃなくてよ……あ!」  和也はそう言いながら望の側まで来ると、望が泣いていたであろう頬の涙の跡に気づく。しかし、それを言葉に出すことはせず、ただ声を上げただけに留めておく。そんなことを言ったら間違いなく望を怒らせてしまうからだ。

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