1160 / 1481
ー崩落ー32
「そうなんですか? それは良かったですよ。そう望さんが言ってるくらいなんですから、大丈夫なんですよね」
裕実の方は一旦言葉を止めると、
「和也に頼まれてお粥持って来ましたよ。望さんがお粥食べたいって言ってて、和也は喜んでましたからね」
裕実は持って来たお粥をテーブルの方へと置くのだ。
「あのさ、和也は?」
「和也の事が気になるんですか?」
そう裕実は冗談ぽく言うのだが、望の方は相変わらず冗談というものが通じないのか、
「別にそういう訳じゃねぇんだけどよ」
「和也なら、お皿を洗ったり洗濯物を畳んだりしてますよ」
「そっか……ありがとうな……」
「気にしなくていいですからね。辛い時にはお互い様で助け合うのが当たり前ですからね」
「ああ、そうだな。今度、お前達が喧嘩した時には俺に相談しに来いよ。俺からしてみたら親友は和也だけじゃなく、お前もなんだからな」
「ありがとうございます」
裕実はベッドの端へと腰を下ろすと、月を見上げる。
「何だか僕……今は凄く幸せって感じがするんですよね。和也という恋人が出来たからではなく、望さんと雄介さんにも会えたって事にも幸せを感じるんですよ」
そう言うと裕実は望の方に笑顔を向ける。
裕実自らそんな事を語り始めるのは初めての事だ。それだけ望達の事を信頼してきているっていう事だろう。
だからなのか、望は話の骨を折らないように聞き手へと回る。
「和也にも話した事がないんですが、本当に僕って昔は嫌われ者だったんですよね。根は真面目ですし、和也みたいには明るくはなかったのでね。他人から見たら浮いてる状態っていうんでしょうか? しかも、学校ではハブというのかイジメみたいなのもされてましたしね。でも、今は違います! それに、看護師になってからは頼られる存在になって、やっと自分がこの世界に生きてるって感じがして、もっと言えば和也とも出会えて、それで望さんにも出会えて、雄介さんにも出会えて、本当に今を生きてるって感じがしたんですよね。本当に和也も望さんも雄介さんも大人って感じがしますよね」
その裕実の言葉に望は普通の表情をし、
「ってか、それが普通だろ?」
と返す。
「そうなんですよね」
裕実の方は再び望に笑顔を向けると立ち上がって、
「望さん! いっぱい食べて下さいね。家の事は全部僕達でやっておきますからー」
「おう! そうだな。今は任せっぱなしで悪いけど、ま、早く元気になるようにはならないとな……」
ともだちにシェアしよう!