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ー崩落ー32

「そうなんですか? それは良かったですよ。そう望さんが言ってるくらいなんですから、大丈夫なんですよね」  裕実の方は一旦言葉を止めると、 「和也に頼まれてお粥持って来ましたよ。望さんがお粥食べたいって言ってて、和也は喜んでましたからね」  裕実は持って来たお粥をテーブルの方へと置くのだ。 「あのさ、和也は?」 「和也の事が気になるんですか?」  そう裕実は冗談ぽく言うのだが、望の方は相変わらず冗談というものが通じないのか、 「別にそういう訳じゃねぇんだけどよ」 「和也なら、お皿を洗ったり洗濯物を畳んだりしてますよ」 「そっか……ありがとうな……」 「気にしなくていいですからね。辛い時にはお互い様で助け合うのが当たり前ですからね」 「ああ、そうだな。今度、お前達が喧嘩した時には俺に相談しに来いよ。俺からしてみたら親友は和也だけじゃなく、お前もなんだからな」 「ありがとうございます」  裕実はベッドの端へと腰を下ろすと、月を見上げる。 「何だか僕……今は凄く幸せって感じがするんですよね。和也という恋人が出来たからではなく、望さんと雄介さんにも会えたって事にも幸せを感じるんですよ」  そう言うと裕実は望の方に笑顔を向ける。  裕実自らそんな事を語り始めるのは初めての事だ。それだけ望達の事を信頼してきているっていう事だろう。  だからなのか、望は話の骨を折らないように聞き手へと回る。 「和也にも話した事がないんですが、本当に僕って昔は嫌われ者だったんですよね。根は真面目ですし、和也みたいには明るくはなかったのでね。他人から見たら浮いてる状態っていうんでしょうか? しかも、学校ではハブというのかイジメみたいなのもされてましたしね。でも、今は違います! それに、看護師になってからは頼られる存在になって、やっと自分がこの世界に生きてるって感じがして、もっと言えば和也とも出会えて、それで望さんにも出会えて、雄介さんにも出会えて、本当に今を生きてるって感じがしたんですよね。本当に和也も望さんも雄介さんも大人って感じがしますよね」  その裕実の言葉に望は普通の表情をし、 「ってか、それが普通だろ?」  と返す。 「そうなんですよね」  裕実の方は再び望に笑顔を向けると立ち上がって、 「望さん! いっぱい食べて下さいね。家の事は全部僕達でやっておきますからー」 「おう! そうだな。今は任せっぱなしで悪いけど、ま、早く元気になるようにはならないとな……」

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