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ー崩落ー52
雄介は望のその潤った唇から離れ、ふと小さく呟いた。
「やっぱ、甘いなぁ」
その声はほんの小さく、望の耳に届いたかどうかも分からないほどだった。
「なにか言ったか?」
望は急に目を細めて、軽く雄介を睨むようにしている。
「ん? 久しぶりの望とのキスっていうのは甘いなって思うてな……」
雄介は幸せそうに望を見つめる。
望はそんな雄介の表情に弱い。雄介の笑顔はまるで夏の向日葵のようで、まったく嘘偽りのない純粋な笑顔だ。それを言われてしまうと、望の頰は春に咲く桜のように赤く染まってしまう。
「ちょ、忘れてるのかよ、一昨日キスした事をさ……」
望は少し言葉を詰まらせながら言う。
「何言うてんねん……俺が一昨日、望とキスした事を忘れてる訳がないやろ? 俺にしてみたら一日でも空いてしまったら久しぶりって感じねんな」
その言葉を聞いた望は、安堵のため息なのか、ただのため息なのか、ふと息を漏らす。
二人がそう話していると、雄介は背後に気配を感じ、振り返ると、カーテンの隙間から怪しげに覗き込んでいる和也の姿を見つける。和也は妙ににやにやしながらこっそりと二人を見ていた。
「お前なぁ、そこでこそこそと何してんねん。中に入って来たらええやんか……俺等って知り合いなんやから、堂々と入って来たらええやんか。何もこそこそする必要はあらへんやろ?」
雄介が和也に向かって言うと、
「ま、怪しい顔っていうのはいいとして……」
和也はにやにやしながらカーテンから一歩、望のベッドへと近づき、
「……ってか、お前等の会話、廊下まで丸聞こえだったぞ。望がいるベッドって廊下側に近いんだから、もう少し声のトーンを下げた方がいいんじゃねぇのか?」
桜色に染まっていた望の頰が、和也の言葉で今度は顔全体が真っ赤になり、湯気が出そうなほどだ。
「んー、俺からしかこんな事言えないしな。だから、俺はありのままをお前等に伝えただけだからな。雄介との久しぶりの再会でヒートアップしちまったら、今度は廊下だけでは済まないかもしれねぇぜ。俺はお前等の関係を知ってるけど、望の事を好きな患者さんにこれを聞かれたらマズいだろ? だから、俺は忠告しに来ただけだよ……」
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