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ー崩落ー57

 そう、さっき和也がわかったようなことを言っていたのは嘘だ。  流石の和也だって、心の奥底にあるような言葉まではわかっていない。ただ話を聞いて順序立てれば、なんとなく望が何を言いたいのかがわかってくるというだけだ。だが、和也のその順序立てた推測は大体当たっていることが多い。  とりあえず和也はしばらく廊下を歩き、仕事へと戻るのだった。  それから仕事をこなし終え、和也は今日、裕実と一緒に帰宅する。 「なんだか、久しぶりに和也の家に来たような気がしますね」 「そうだな。ここ最近、望の家とか病院の往復ばかりだった気がするからな。昨日の夜はお前が夜勤だったから、二人きりで俺の家に来るのは本当に久しぶりなのかもな」  和也は自分のお気に入りである緑色のダウンをハンガーへと掛ける。 「裕実の方も脱げよ……部屋の方は暖かいから、着たままだと逆に汗をかいて風邪引いちまうぞ」  和也は普通に言ったつもりだったが、どうやら裕実は変に受け取ってしまったらしい。急に和也の言葉で頭を俯け、両手の拳を握り、その手が微かに痙攣している。  そして、今まで溜めていたものを吐き出すかのように顔を上げ、いきなり大きな声を出すのだった。 「和也ー!」  流石の和也も、その裕実の声に圧倒され、半歩引いて驚いた表情で裕実を見つめる。 「……って、何だよ。いきなり、そんな大きな声出してさぁ。びっくりするじゃねぇか」 「和也がまたくだらないことを言うからですよ!」  その裕実の言葉に、和也は声を裏返しながら返す。 「はぁ!?お前何言ってんだ!?俺は普通に服……」  そこで和也は一旦言葉を止め、裕実が何を言いたいのかがわかったらしく、 「あ、もしかして……今俺が言ってたことを勘違いしてんのか?」  その和也の言葉に、今度は驚いた表情をしているのは裕実の方だ。 「え!?僕はてっきり、『服を全部脱げよ』って感じに聞こえてしまったんで、つい大きな声を上げてしまったんですけどね」  その裕実の言葉に、和也はくすりと笑い、 「やっぱり、ドジだよな? まぁ、そこがお前の可愛いところなんだけどよ。それにさぁ、俺だって流石にそこまでがっついてねぇよ。それに、この前お前に抜いてもらったばっかりだしさ……ってか、お前の方がヤバいんじゃねぇのか? 体が俺のこと欲してて、頭の中では制御してるつもりでも、言葉とかが先走っちまってんじゃねぇのか?」

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