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ー崩落ー60
『なんや、珍しい人からメールやんな。今日はちょっと忙し過ぎてそっちに行かれへんかっただけや。せやな、明後日は必ずそこ行くし、心配せんでも平気やで……』
二人は、ほぼ同じタイミングで雄介からのメールを読み終え、お互いの視線がぶつかった。
「その顔は、何か引っかかる部分でもあったってことだよな?」
「はい!そうなんですよー。最後の『心配しないでも平気』ってところですかね」
「はい!ビンゴ!」
和也はその言葉と同時に裕実を指差す。
「俺もさ……そこが引っかかったんだよな? どういう意味で『心配しないでも平気』って雄介は送ってきたんだろうな」
「これって、ある意味二つありますよね? 一つは『ちゃんと望のこと迎えに行くから心配すんな』ってことと、『今日は忙しかったから行けなかったけど、自分は生きてるから大丈夫だ』っていう意味です」
「どちらにも当てはまるから困るよな? 本当、メールだけじゃわからないことってあるよな?」
和也は、とうとう考えが煮詰まったのか、癖っ毛の頭をクシャクシャとかきむしる。
「メールってさ、言いたいことを伝えられる便利なものかもしれないけど、相手の表情が見えない分、わからないことも多いよなー。いくらでも言いたいことを書けるけど、ネットの世界でも同じだろ? 今の時代、それが問題になってるじゃねぇか……ネットいじめがあるってな。しかも匿名やHNで、普通の人にはそいつが誰なのかってわからない。俺にはそういうことやる奴の気持ちなんてわかんないけど、被害者は我慢するしかないってのか?」
「ですよねー。でも、雄介さんは和也のように先を読むような人じゃないから、普通に質問したら返ってくると思いますよ」
「……って、その『普通』ってのがわからないんだよな」
「なら、聞いてみます?」
「そっか!そういうことな!あ!雄介の場合には深く考えなくても良かったんだったな」
「和也……」
裕実はため息をつきながら和也の名前を口にする。
「じゃあ、そうしましょうよ。上手くいけば深いこと聞けるかもしれませんよ」
裕実は、悪巧みを企むような表情を浮かべ、和也の方に視線を向ける。
その裕実の表情に、和也は逆に不思議そうな表情を返す。たまに和也でも、裕実が考えていることがわからないのだ。
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