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ー崩落ー65
「明日からとは言わずに今日からっていうか、僕の方は今からでも構いませんけど……」
その裕実の言葉に和也はもう一度裕実の事を見つめる。
「そうだな……善は急げって言うしな。早めに実験してみて答え出すのもありだよな?どうせ、これから風呂にも入らなきゃなんねぇしよ」
「でも、僕の方は和也と一緒に入りませんからね」
その裕実の言葉に和也の方は一瞬目を丸くしたのだが、もう裕実の方が望の気持ちになっているという事に和也は気付いたのであろう。軽く目を瞑り、次の瞬間には目を開けると、
「分かった……んじゃあ、先に入って来るな」
和也はそう言うとソファから立ち上がってそのままお風呂場の方へと向かって行ってしまうのだ。
いつもの和也だったらここでもう一押しして裕実と一緒にお風呂に入るのだが、今日の二人は雄介と望の気持ちになっているからか、二人共そういう感じにしたのであろう。
いつもしつこいくらいに和也は裕実と一緒に入るのだが、雄介の役になりきっている和也は、裕実が断りを入れると素直に行ってしまった。そんな和也に裕実は寂しさを感じているのかもしれない。あーだこーだ言っても、もっと和也という人間はお風呂に入ろうって言ってきて、結局最後には二人でお風呂に入る事が多いのに今日はそれがない。
「確かに雄介さんって、無理強いはしないでしたもんね。でも、それは何だか寂しい感じがするんですが……」
そう今日の裕実は和也の部屋へと一人残され、和也がお風呂に入っている間、ただただお風呂場に流れる水音だけが聴こえてくるだけだ。
それともう一つ裕実が感じたのは、やはり仕事で忙しくてあまり二人だけの時間を取れない二人なのだから、一時でも一緒にいたいと思ってしまうのは好きな人だからなんであろう。
少しずつではあるのだが、望の気持ちがわかってきたような気がする。
望が本格的に雄介の事が好きになってきたからこそ、今の雄介では物足りないのであろう。雄介は本当に優しい性格だ。そして本当に雄介だって望の事が好きだからこそ自分がしたい事を押していくタイプではない。だから今の望からしてみると雄介にもっと押して欲しいと思っているのかもしれないからだ。
裕実が寂しい気持ちで和也がお風呂から上がるのを待っていると、やっと和也の方もお風呂から上がって来る。お風呂場からの水音は止み、和也は裕実から見えない位置で体を拭くとスウェットに着替えて出てくる。
「上がったから、次は裕実の番だぜ」
「はい!」
裕実の方はそう言うと大きな声で返事をしお風呂場へと向かう。
口調の方はいつもの裕実なのだが、やはり演技しているからであろうか?裕実は望で、和也は雄介になりきっているようだ。
裕実がお風呂に入っている間、和也の方は布団の中へと潜る。今日はもう時計の針が零時を回っているのもあるのだが、和也の場合は横になった方が色々と考え事が纏まるらしい。
今は雄介の気持ちになってお風呂に入ってみていた。そして、そこで考えてみる。
「俺と雄介の違いって……?」
そう自分に呟くようにして問う和也。
「あー!」
そして急に大きな声を上げベッドから半身だけを起こすと手を叩くのだ。
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