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ー崩落ー68
そんなおいしい言葉を、和也が言ってしまうと勿体ないと思っているのだろうか。
「ホンマに、望は俺のこと待ってくれてるんかな?」
雄介はぽつりと口にする。だが、和也はその言葉にため息を吐くと、
「なぁ、雄介……本当に望の気持ちなんて分かってねぇだろ? それに、どうした? お前らしくねぇんじゃねぇのか? そんなに弱気になってるなんてさ……」
「しゃーないやん……この前、俺と望の間で何かあったんやからな。いつも思うねんけど、和也って俺の気持ちはそっちのけで望のことばっかやんな」
雄介の表情は、怒りと悲しみが入り混じっているように見える。
確かに、雄介にそう言われて初めて気づいたことなのかもしれない。和也は大体、望のことだけを雄介に伝えているだけで、一切、雄介のことを望に伝えたことがなかったのかもしれない。
「そうなのかもしれねぇが、望のことを雄介に伝える方が理解してくれると思ったし、それに、望と俺は何年も一緒にいるから望の気持ちとか分かるんだよ」
和也からしてみれば、まるで言い訳のようだ。
和也は自分が考えていたことと違う答えが返ると、若干焦るタイプだ。だからこそ、そんなことを口にしてしまったのかもしれない。
「……ってことは、望のフォローはいくらでもできるけど、俺にはフォローできないってことやな?」
「何でそうなるんだよー。別にそういう訳じゃねぇんだけどな」
和也は一瞬、先日和也と裕実がそれぞれ雄介と望を演じたことを思い出し、その時、和也が雄介を演じたことが頭に浮かんだらしい。
しかし、今日の雄介は、いつもより和也に突っかかってきているようにも見える。それは、望のところにどう行くか悩んでいて、寝られないまま来たからかもしれない。雄介とはそういう奴だ。悩みを抱えると、そのまま寝られなくなるタイプなのだろう。
だからなのか、それとも和也に突っかかっているからなのか、今日の雄介はいつもとオーラが違うような気がする。
いつもの雄介は優しさと明るさを感じさせ、ニコニコと笑顔を浮かべているのだが、今日の雄介はまるで威圧感を放っているような雰囲気だ。
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