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ー崩落ー70
「後は和也の仕事でしょう? 雄介さんの周りにいる人たちをいつものように病室の方に戻してくだされば、輪の方はなくなると思いますからね」
「分かったよ」
和也は裕実の言葉に、仕方なさそうに答えると、雄介を取り囲んでいるギャラリーの中から様々な声が聞こえてくる。
「何の話をしていたのかは分からないけど、やっぱり梅沢さんってすごいよな? だから、俺たちも安心して治療が受けられるっていうのかな」
「なんか、すごく心に響くものがあったって感じ? あんなに心の優しい人って、なかなかいないと思うわ」
周囲では和也のことを褒める声があがり、さっきの女性は憧れのまなざしで和也を見つめているかもしれない。
「和也ー」
その声に、裕実が黙っていられるはずもなく、いつもより低い声で和也を見上げる。
「気にすんなって。大丈夫、俺は裕実だけだからな」
和也はそう言うと、裕実の頭を撫で、ギャラリーに向かって声をかける。
「皆さん、とりあえず自分の病室に戻ってもらえませんか? 俺もですが、この輪の中の中心部にいる方が困っています。それに、皆さんの体調を考えると、この寒い廊下にいるのはあまり好ましくないので、どうか暖かい病室でゆっくりしてくださると助かります。ご協力のほど、よろしくお願いします」
和也が頭を下げると、ギャラリーの人たちはそれぞれの病室へと戻っていく。今まで和也の位置からは見えなかった非常階段の非常口の看板も、ようやく視界に入るようになった。
和也はそれを見届け、安堵のため息を漏らす。
「まさか、こんなに多くの人が俺たちのことを見てたなんて、ビビったぜ」
「そりゃ、ナースステーション前でパフォーマンスみたいに話していれば、ギャラリーが集まるに決まってるじゃないですか」
裕実も呆れたようにため息をつく。
「まぁ、和也の場合はトラブルメーカーか? それともみんなに愛されてるのか、どっちかだろうな」
やっと雄介もギャラリーから解放され、和也たちの前まで来て、羨ましそうに言う。
「俺はみんなから愛されてるに決まってんだろ!」
「やっぱりアカンわぁ……和也を調子に乗らせるようなこと言うと、すぐに調子に乗りよるんやな」
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