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ー崩落ー72

 そんなに雄介が心の弱い人間というわけではないのだが、再び訪れてしまった望との微妙な関係に、どうしても弱気な心を拭いきれないようだ。 「俺が今のままではアカンのかな?」  一人でそう呟いてみても、その言葉が誰かに届くわけもなく、雨音や車の音に掻き消されてしまう。  やっとのことで雄介は家に辿り着くが、なぜか望が家にいる気配がないように感じた。  部屋に入って一階のリビングを覗いてみるも、人の気配もなく、電気も消えたままだ。  この季節の寒さを考えれば、帰宅してすぐにエアコンくらいはつけるだろうし、望がいるなら何か生活音がするはずなのだが、お風呂場にも気配はない。  雄介は今度、二階の部屋へと向かう。病み上がりの望が寝室で休んでいるのかと思ったが、そこにも彼の姿はなかった。少なくとも望は病院から帰宅しているはずなのに、家の中にはまったく望の気配がない。一体、彼はどこへ行ってしまったのだろうか?  雄介は一旦リビングに戻り、望が帰ってきたときのためにエアコンをつけてから、食卓の椅子に腰を下ろす。頭を抱えてテーブルに肘をつき、和也に言われたことを思い出してさらに頭を抱え込んでしまう。  確かに和也に言われた通り、雄介は本当に優しすぎるところがある。何事においても望の言うことを聞くばかりで、自分の意見を主張することは少ない。前に付き合っていた女性にも、同じようなことを言われた記憶がある。 『雄介は優しすぎる! 見た目はしっかりしてて頼りがいがありそうなんだけど、女の子は男の子に引っ張ってもらったほうが嬉しいのよ。見た目は男らしいのに…中身はそうじゃないのよね?』  だが、それも雄介なりの愛し方だ。嫌われたくないからこそ、相手に合わせてしまう――そのほうが相手を離したくない気持ちが伝わると信じていた。だが、こうして二度も同じことを繰り返しているのだから、鈍感な雄介でもさすがに気づき始めている。  その言葉が頭の中で繰り返されるように、胸に重く響いてくる。  そして、突然何かを思い出したように携帯を取り出し、望に電話をかける。  だが、予想通りというべきか、望が電話に出る気配はなかった。

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