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ー崩落ー73
だが今日の雄介は諦めず、何度も望に電話をかけ続け、そのたびにコール音を聞き続けた。それでも望が出る気配はなく、何回電話をしたのか分からなくなった頃、ようやくコール音の後に望が応答するのが聞こえた。安心したのも束の間、雄介は少し怒ったように、
「今、どこにおんねん!」
望は、きっと雄介からの電話を何度も無視していたので、怒られるのは分かっていたのかもしれない。だが彼は、ただ静かに、
「今はまだ外だ……」
とだけ答えた。
「外だってことは分かってんねん! 家じゅう探しても望おらんかったんやからな!」
雄介は、普段は滅多に見せないような苛立ちを声に乗せてしまっていた。
「せやから、どこにおるんやって聞いてるんや!こっちはな、病院から帰ってきて、望の気配が家にはなくて、むっちゃ心配しとんのに『外におる』ってどういうことやねんな?…そうやなくて、今、望がいる場所を俺は聞いてるんやけど……」
「車でドライブしてるじゃあダメか?」
「そんなの通じるわけないやろ!ナビ使えば今どこにおるか分かるやろが!ってか、病み上がりになにしてんねん…まぁ、とりあえず早く帰ってきぃ。家で飯作って待っとるから……」
最初は怒りの口調だった雄介も、望が電話に出てくれたことに安堵し、あるいは望が帰りやすいように気を使っているのか、いつの間にか口調が穏やかになっていた。
「分かったよ……。でもさ、お前、家の中でまだ探してないとこないか?」
望の言葉に、雄介は驚いた表情で目を白黒させ、周囲をキョロキョロと見回し始める。彼はふと地下室の存在を思い出し、そこに向かって歩き出した。階段を降りると、地下室には明かりが点いていた。
地下室に入り辺りを見渡すと、そこにベッドがあり、人一人分の膨らみが見て取れた。ベッドには望が横たわっているらしいが、雄介はその場で立ち止まり、先に進めずにいた。
きっと、どうすればいいのか分からなくなっていたのだろう。電話を切ることはできたものの、望が本当に家にいたことに動揺してしまい、次にどう動くべきか迷っていたのかもしれない。
立ち尽くす雄介は、帰宅してからの出来事を頭の中で振り返る。自分がどこか冷静さを欠いていたからか、家に帰ったときに玄関に望の靴が置いてあったような気がしてきた。
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