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ー崩落ー80

 望たちは早めに来ていたものの、出発時間まではまだ時間がある。病院の中とは違い、人が増えてくると、修学旅行のような賑やかな雰囲気が漂い始める。特に一番騒いでいるのは、いつも明るい和也だ。もしかすると、この雰囲気を作り出しているのも、和也の影響かもしれない。  望はそんな中、朝の穏やかな時間を過ごしていた。  だが、まさかこの後、この穏やかな時間が壊れるとは思ってもいなかっただろう。  ゆっくりと時間が過ぎる中、旅行に参加するメンバーが徐々に集まってくる。そんな中、窓の外に視線を向けていた望が裕二の姿を見つけた。  この旅行に裕二が参加することは知っていた。しかし、裕二の隣にもう一人人影が見えているのは気のせいだろうか。  望は視力が悪く、裕二の顔は見慣れているためわかるが、もう一人の人物については全く見当がついていないようだ。  やがて、その二人はバスの近くまでやってきた。近くで見えるようになり、望はようやくその人物が誰なのかわかると、みるみるうちに顔色が変わる。  そして、こう呟いた。 「アイツが来るなんて聞いてねぇよ……」  その望の独り言が隣に座っていた和也の耳に届いたらしく、和也も身を乗り出して窓の下に視線を移すと、 「何で、お前の弟も旅行に来たんだ?」 「俺だって聞いてねぇよ。親父が歩夢にオッケーしたってことだろ?ホント、親父は歩夢には甘いよな?」  望はそう憂鬱そうに呟いた。  そして次の瞬間、和也だけでも賑やかだったのに、歩夢がバスに入ってきたらさらに騒がしくなるのは間違いない。

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