1209 / 1481

ー崩落ー81

 ちょうど、望が座っている座席の下に荷物を入れる部分がある。そこに辿り着いた裕二と歩夢。  どうやら歩夢は、望が下を覗き込んでいる姿に気づき、笑顔で手を振ってくるのだが、望はその歩夢の行動を無視し、視線を外した。 「ホント、お前の弟って相変わらずなんだな」  和也も一緒にその歩夢の行動を見ていたらしい。歩夢の姿にため息をついた直後、和也は背後に気配を感じて振り向くと、そこには歩夢が立っていた。 「和也……あのさ、僕、兄さんの隣に座りたいんだけど……変わってくれない?」  まだ和也とは今日で二回しか会っていないというのに、もう歩夢の方は和也を名前で呼んでくる。  さすがの和也も、まだ二回しか会っていない上に歩夢が自分より年下であるため、名前で呼ばれるのは気が進まないのか、苦笑いを浮かべながらも言った。 「歩夢君……俺の方が年上なんだけど……?」 「あー! そんなこと? ホント、日本人って冷たいよね? ってか、和也には細かく説明しないとわからないのかな?」  そう言いながら、歩夢はちゃっかりと補助席を開き、そこに腰を下ろして腕と足を組んだ。 「アメリカでは基本的に名前なんかはファーストネームで呼び合うんだよね? だから、和也でいいんじゃないの?」 「お前はアメリカ育ちなのかもしれねぇけど、ここは日本なんだからな……日本流に従えっての!」  和也は望を守るかのように正面を向いて座った。 「日本って冷たいよねー。アメリカなんかはどんな年の人でもフレンドリーって感じだったのにさ。じゃあ、仕方ないなぁ、ここは日本だからね。梅沢さんの言う通り、梅沢さんって呼んだ方がいいってことなんだね?」  歩夢は「これで満足?」とでも言いたげな表情を和也に向けた。  こう言われてしまっては、和也も文句の言いようがないようだが、どうも納得はいってないらしい。 「ところで、梅沢さん……。あのさ、梅沢さんの場所、交代して欲しいんだけど……? 僕はさ、帰国してきてからあまり兄さんと話してないから、話したいんだよね?」

ともだちにシェアしよう!