1210 / 1481

ー崩落ー82

 今日の歩夢は下心なしで話しかけてくるので、和也は危うくその言葉に頷きそうになっていたが、その時、望が和也の服の袖を引っ張った。和也がその行動に気づき、望の方へ視線を向けると、望は首を横に振る。  望のその行動でやっと気づいたのか、和也は両腕を頭の後ろで組んで、背もたれに体を預けた。 「ダメに決まってるだろー! お前にこの場所を空けたら望に危険が及ぶことになるんだしよー」 「そ、なら、いいんだけどさ……。確かに僕は兄さんには下心あるんだけどさぁ。さすがにバスの中で兄さんのこと襲うわけないじゃん。何、梅沢さんは勘違いしてるのかな? ってか、それくらいは当たり前でしょう? 何? 僕がここで公開プレイでもするとも思った!?」  本当に歩夢は小さい頃からアメリカに住んでいたのだろうか、と思うくらい日本語が達者だ。次から次へと出てくる言葉に、和也も押されているように見える。 「さすがにそれはないだろうけどさ……」 「なら、話がしたいっていうくらいならいいんじゃないの? 今日の梅沢さんは兄さんのボディーガードみたいなもんなんでしょう? 今日はここには雄兄さんがいないんだしー。なら、今日の僕のターゲットはボディーガードがいない裕実さんにしようかな?」  そう言うと、歩夢は和也の隣の補助席から離れ、和也の後ろに座っている裕実の隣の補助席に座った。 「わぁー! ちょっと待てよ! お前のターゲットは望だけじゃねぇのか?」 「兄さんの方は特別だけど……僕は裕実さんのことも好きなんだよ。しかも、兄さんよりも肌が白いしー、可愛い感じがするしね。梅沢さんが裕実さんを好きな理由、分かるような気がするしね」  裕実の隣に移動した歩夢は、今にも裕実に触れそうだ。  和也にとっては、究極の選択のような場面だろう。  恋人である裕実を歩夢の手から守るか? それとも親友である望を守るか? 「お前なぁ、恋人相手にするのは一人にしろよなぁ」  和也にとっては、これが最後の言葉かもしれない。これ以上、歩夢を止める術がないのだ。  もしかしたら、これで二人とも助かるかもしれない言葉でもある。 「んー……」  やっと歩夢も考え始めたようだが、次の瞬間、歩夢の口から出たのは、 「誰が恋愛相手を一人しかダメって言ったの? さすがに結婚してからはダメだっていうのは分かるんだけどさぁ、恋人なら一人居ても、二人居てもいいんじゃないの? ただ、自分が大変な目に遭うだけなんだしさぁ」

ともだちにシェアしよう!