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ー崩落ー86
「つーか、旅行って言ったらおやつじゃね? 何々ー? 望はおやつ持って来なかったから、本当は食べたくてそんな事言ってんじゃねぇのか? なら、あげてもいいんだぜ」
望はその和也の言葉に頭を抱えながらため息を吐く。
「そう俺は言ってねぇだろうが……別にいらねぇし、それになガキじゃないんだぞ」
「望って相変わらず息抜きの仕方っていうのか、そういうの全く知らねぇよな? ってか、今回の旅行の目的っていうのは体を癒すための旅行なんだろ? ならさ、今日は仕事から解放されてるんだから楽しまなきゃ損なんじゃねぇの? だから、今日の俺はいつも以上に馬鹿になる! って決めて来たんだからなぁ」
「なら、もう俺の方は何も言わねぇよ……一人で勝手に息抜きしてればいいだろ?」
望は和也にそう言うと窓の外を流れる景色を眺める。
「んじゃあ、そうさせてもらいまーす!」
そう二人の会話が途切れた頃、歩夢の隣に来た颯斗と話し始める。
「ねぇ、誰だか知らないんだけど……僕を裕実さんの隣にしてくれないかな?」
「それは出来ない質問かな?」
「どうしてよー、あんたには関係のない事でしょう?」
「さっきの会話を聞いてたのだけど、どうやら、私にも関係のあるような事なのだけど?」
「どう考えたって関係ないんじゃない?」
「じゃあ、君は今日のバスの席がどうなっているか分かってる?」
「はぁ!? 意味が分からないんですけどー! 何その質問ってさぁ?」
「そっか……この席順の意味が君にはわからないって訳だ。 なら、教えて上げるよ。 君はウチの病院が看護師と医者のコンビで組んでいて、そのコンビ同士でこの席順になってるんだけどな。 きっと、院長は病院以外で二人の仲を深めるためにこの旅行で隣同士にしてくれたんだろうね。 それは君は院長さんの息子さんでまだ学生みたいだけど……君の方がこの旅行ではおまけみたいなもんなんじゃないのかな? そうそう、それにこの旅行に連れてきてもらったっていうだけでも感謝しないといけない立場だと私は思うのだけど……だから、君の席は補助席の方がいいと思うんだけどね。 もっと言えば君は本当にこの旅行には関係の無い人間なのだから他の人の邪魔しちゃ、いけないんじゃないのかな?」
その颯斗の言葉に歩夢は何も言い返せなくなってしまったのか、颯斗からは視線を逸らし反対側を向いてしまう。
その颯斗の言葉に和也はお菓子を口にしながらクスクスとしていた。
流石は和也より言葉が上手な颯斗。あんなに和也は歩夢との言い合いに苦戦していたのに、颯斗のこうも簡単に言い負かしてしまった。
とそんな時、バスの方はトンネルに入ったのか急に周りの景色がなくなり暗くなる。今はバスの中にある照明だけの明るさしかなくなったようだ。
トンネルの中に入ると音が反響して聞こえ、一時的に耳が聞こえづらい状態になってしまう。
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