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ー崩落ー88

「俺の方もまだ何があったかなんて事、まだ、分かってねぇって所かな? まぁ、事故に巻き込まれたって所だろうな」 「確かにそうみたいですよね」  裕実は隣の席に座っている颯斗に声を掛ける。 「新城先生! 新城先生! 大丈夫ですか?」 「ん……」  そう声を上げる颯斗。 そして颯斗の方も気が付いたのか目を覚ますと辺りの状況を確信しているようだ。 「何があったのかな?」  目覚めた人達が必ず口にする言葉。 だが誰も何が起きたなんかというのは分かってはいない。 「僕の方も今目覚めたばかりで何が起きているのか? っていうのは分からないんですよ」 「そっか……。 すまない……変な事を聞いてしまったみたいで……」 「別に謝る必要なんてないですよ」  そう笑顔で答える裕実。 「ところで、和也! 望さんの方は大丈夫なんですか?」 「え? あ、大丈夫だよ。 寧ろ、俺は望に起こされた位だからな。 望は今みんなの安否確認しに行ってる。 俺は先ず裕実の安否確認したかっただけだからな」  そんな会話をしている中、周りの人間も次から次へと気が付いたのであろう。 今まで完全に静かだった車内がざわつき始める。  颯斗は歩夢の事を起こし始める。 確かに、さっきまでは言い合っていたのだが、生存確認と喧嘩とは別物という事だろう。 「君、大丈夫かな?」 「……ぁ……ぅ……まぁ、何とか……っ!」  歩夢は颯斗の質問に『大丈夫』とは答えたものの、何処か痛いのか苦痛そうな声が出たような気がする。 「君ねー……そんな声出して、医者達を誤魔化そうって言ったってそれは無理だと思うよ。 そこは強がるところじゃないんだから素直に痛い所があるんだったら言ってくれよ」 「何処も痛くないって言ってんだから、痛くないの!」  その歩夢の言葉に颯斗も和也もため息を漏らす。 「お前なぁ、わがままもいい加減にしろよー。 みんなが心配してくれてんだからさ、素直に言ったらどうだ? 新城の言う通り、俺等の前ではホントそういうのは誤魔化せねぇの……それとも、痛いのは駄目とかって言うんじゃねぇだろうな?」 「……そんな訳ないじゃん! ガキじゃあるまいし」 「まぁ、それはいいとして、ここは暗くて見えないんだから、自己申告してくれねぇとホントに分からないんだけど……」  さっき歩夢と和也は喧嘩していた仲でもあったのだが、今のこの状況ではそんな場合ではない。 寧ろ喧嘩していても助け合わないと助からないかもしれない状況だからだ。

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