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ー崩落ー98
「な、何がだよ……」
その二人の会話に対して颯斗はクスクスと笑っている。その証拠に頭を俯けて肩を震わせているのだから。
それを見た望は、
「おい! 何でお前まで笑ってるんだよー!」
「いやね……吉良先生の弟さんの方が言葉巧みだなぁーって思ってね」
確かに颯斗の言う通り、歩夢の方が言葉巧みなのは分かっているが、そこは兄として認めたくないところなのかもしれない。
「吉良先生……そろそろ観念した方がいいんじゃないんですか? 弟さんに言葉で負けているようじゃあ、我々には勝ち目はないんですからね。それに、吉良先生にとって一番頼りがある梅沢さんもこの場にはいませんしね」
「俺がそんな恥ずかしい事、死んでも言う訳がねぇだろ? ただ単に俺が口を割らなきゃいいだけの話なんだからな……誰が観念するか、お前等の方が馬鹿か?」
そう勝ち誇ったかのように言って息を吐く。
「じゃあ、さっきの僕との交換条件は?」
「それは、お前が勝手に決めただけであって、俺の方はそれに同意はしてねぇからな……だから、契約にはなってねぇ訳だし」
「なんだよそれー! それって、僕の喋り損じゃん!」
歩夢は頰を膨らませながらため息を吐く。
「そう思うならそう思ってろよ。まだまだ俺はお前に負ける訳にはいかないんだからな」
そんな事を言ってると、みんなの所にお菓子を配っていた和也と裕実が戻って来る。
「後は僕達の分ですよ」
そこにはスナック菓子が二袋残っていた。
「とりあえず、これで数日間保たせなきゃならないんだよな?」
「そういう事になりますね」
裕実はそう答えると、和也と一緒にその場に腰を下ろす。
「あー! 梅沢さん! いい所に来た!」
そう歩夢は笑顔で言うと今度は和也の隣に座り、
「ねぇ、梅沢さん……兄さんが梅沢さんとのこと話してくれなかったからさぁ、梅沢さんから聞かせてくれなーい?」
その歩夢の言葉に和也は驚いたような表情をし、
「え? 望……まだ、コイツ等に話してなかったのか?」
そう和也は望に振るのだが、
「ああ、まぁな……。ただ単に和也と俺が話さなきゃいいんだって言ったら、黙ったからな……だから、俺等が言わなきゃいいだけの話だ」
その望の言葉に和也も自信を持ったのか、和也もまた、
「んじゃあ、俺の方も話さない……。つーか、過去の人の心の傷をえぐるような事はしないでくれ。まぁ、それがあったから、俺は前向きになれたっていうのはあるんだけどな。それと、今は望と一緒にいられるだけで幸せだし」
和也はひと息吐くと歩夢に向かい、
「お前もさぁ、他人のばっかり欲しがってねぇで……本当に幸せだと思える人を好きになった方がいいんじゃねぇのか? そしたら、自分にもちゃんとした幸せが訪れるからな」
和也はそこまで言うと笑顔で裕実に視線を合わせる。
「そうですよー。僕は和也と今一緒にいられて凄く幸せですからね」
裕実も笑顔で和也に視線を合わせ、幸せそうに和也の手を取る。
「そういう事だ」
望は一瞬、裕実の行動を見ていたが、すぐに視線を逸らし、さり気なく携帯のテレビに視線を移す。
そこには未だに大型機械を操りトンネルの前にある土砂を掘り出している救助隊の姿が映っていた。
そんな姿に望は急に切なそうな表情を浮かべる。
テレビの向こう側には恋人がいるのに、会えそうで会えない。
このテレビの向こう側に恋人が居るのに、全く手の届かない場所に未だにいる恋人。
たった一言だけでもいい。不器用な自分だけど、テレビの向こう側にいる恋人に伝えさせてくれないか。
『俺は今この中に居るから、早く、助けてくれないか?』
そう伝える事が出来れば、もしかしたらもっと早く助けに来てくれるのかもしれないのだから。
……せめて、声だけでも向こう側に届いてくれればいいのに……。
「やっぱり、まだだよな?」
望がそう一人でテレビを見ていると、和也が望の背中から身を乗り出し、望が持っている携帯テレビを覗き込む。
「まだ……だよな……。多分、急いでいるんだろうけど、土砂がネックなんだろうなぁ」
「しかし、今の時代は便利だよな。携帯にテレビが付いていて外の情報が分かるんだからさ」
和也がそう言い終わる前に、報道のアナウンサーが行方不明者の名前を一人ずつ読み上げていく。
そういえば、さっきから色んな所で携帯が鳴っている。
テレビでのニュースを見て身内の誰かが連絡してきているのであろう。
だが、和也や裕実、颯斗には身寄りが近くにいないのか、そういった電話はなく、今までそんな事に気付かなかったのだろう。
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