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ー崩落ー105
一歩ずつ、一歩ずつ、望と和也は歩みを進め、それと同時に光の出口が大きくなってくる。そして、三人が外に出た頃には真っ青な空が広がっていた。
今まで暗い所にいた三人にとって、その空は眩しいくらいなのかもしれない。また、外に出たことによって色々な音も聞こえてくる。鳥の囀り、ヘリコプターのモーター音、車のエンジン音。何もかもが久しぶりに感じられる。そして、冷たい風。中はあんなに異常なほど暑かったのに、今は季節を感じるかのように冷たい風に包まれている。
望はその新鮮な空気を吸い込むように、体を思いっきり空に向かって伸ばす。
「やっと……俺たちも助かったんだな」
そうしみじみと独り言のように言った望だったが、望の横にいた和也は、そんな望の独り言を聞いていたのか、
「そうだよな……。やっと、俺たちは助かったんだよな!」
と助かった喜びを体全体で表現する和也。
「良かったな。それより、望たちも一応病院に行った方がいいんじゃない? 怪我はなさそうだけど、まぁ、念のためってことで」
「お前に言われなくても分かってるよ」
和也はふざけながら言うと、裕実と一緒に救急車が待機している場所へと向かう。
だが、望はその場からまだ動こうとしない。
その望の様子を不思議そうに見ていた雄介は、望のことを覗き込み、
「どないしたん? 望も行かんと……」
そう雄介は望に言ったが、望は突然雄介の腕を掴み、自分の方へと引き寄せると、
「お前なら、必ず俺たちのことを助けてくれると思ってたぜ……だからな……」
望はそこまで言うと頭を俯かせ、小さな声で、
「だから、ありがとうな」
それだけ言うと、望は雄介から離れ、救急車が待機している場所へと向かう。そして望たちは病院へと向かった。
望たちは異常はなかったが、歩夢と裕二の方はしばらく入院になった。
歩夢が入院している中、望は歩夢の担当医になってしまったらしく、病室の方に向かうのだが、何やら前に比べて歩夢は望にあまり興味がなさそうに思える。
むしろ、望が歩夢の病室に現れても、雑誌に目を通しているだけで、望の方に視線さえ向けようとしていない。
流石の望もその歩夢の行動に不思議に思いながら、歩夢に声を掛ける。
「な、お前さぁ、何そんなに真剣に雑誌なんて見てるんだ?」
「んー、これ……この前のトンネル事故の記事……」
まぁ、確かにこの前の事故のことは気になるところだ。事故から二日。望は忙しかったので、そのニュースに関しては知らなかった。
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