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ー崩落ー108
それから、望も仕事を終わらせたのか、着替えて家に向かう。
今日は雄介がいる日で、望が玄関へと向かうと、雄介が玄関に顔を出してくる。しかし、今日の望は本当に暗い表情をしながら雄介のことを見上げる。
いや、むしろ今日の望は今にも泣きそうな顔だ。
「今日はどないしたん? そないな暗い顔して……」
望がこんな暗い表情で帰ってきたのは初めてのことかもしれない。もしかしたら、職場で信じられないようなことが起きて、それを家にまで持ち込んできたのだろうか? いや、もしそんなことがあったとしても、望は普段家に持ち込まないのだが。
望は雄介の言葉に思いっきり首を振る。
「ほなら、何?」
一瞬黙った望だったが、
「とりあえず、中に入ってから話すよ」
望は靴を脱ぎながらそう言うと、雄介と一緒にリビングへと向かう。
「とりあえず、飯は食べるか?」
「ああ……」
明るく言う雄介に対して、まだ暗い声で返事をする望。
テーブルの上には雄介が作った料理が並べられている。
「ほんで、どないしたん?」
再びその質問に黙ってしまう望だったが、やっとのことで口を開き、
「雄介はさ……」
その後の言葉が続かない望。
しかし、今日は珍しく雄介が先に口を開く。
「何があったんかは分からへんが、俺はお前以外は絶対に好きにならへんで……」
その雄介の言葉に、望は目を丸くする。
「なんで……俺が言いたいこと分かってんだよ」
「簡単やって。望が言葉を濁す時って、そういうことやろ? それに、そのことを言って顔色も変えたしな」
「まぁ、そうなんだけどよ。実はさ、歩夢が雄介のことを好きになったって言ってたんだよ」
「前までは歩夢、望のことが好きやって言うてたのに?」
「お前があの事故の時に歩夢を連れ出したんだろ? その時にお前のことが好きになったって、アイツは言ってたんだけどさ……お前、まさかあの時に歩夢に何かしたんじゃねぇだろうな?」
「……へ? 俺は特別に何もしてへんぞ。望に言われた通り、アイツを無理矢理外に連れ出しただけやしな」
「本当にだな?」
まだ望の中で疑いが晴れていないのか、睨むように雄介を見上げる。
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