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ー過去ー4
「あのさ……まだ、俺には和也の言ってる意味が分からないんだけど? とりあえず、水でも飲んで落ち着いてから話せよ」
望は痛む腰を引きずりながら冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り、自分の分も一緒に和也がいるドアの前まで持っていく。望は和也から薬を受け取ると、ミネラルウォーターを口にした。
一方、和也は丸々一本の水を一気に半分ほど飲み干し、袖で唇を拭いて少し落ち着きを取り戻したようだ。
和也は望の側へと近づき、
「だからさぁ、さっき、俺は望のために薬を取りに行っただろ? その時に昔付き合ってた奴が『院長室はどこですか?』って聞いてきたんだよ。で、そん時に『俺を追いかけてこの病院に来た』って言ってたんだ……それが、さっきの話に繋がる訳……」
望はその説明を聞き、ようやく和也が言いたかったことを理解したようだ。
「なるほどー、そういう事か……」
「な、まずいだろ?」
「プレイボーイな和也君のピンチって訳だな」
「笑い話じゃねーんだよ……」
望の明らかにふざけた様子に、和也はゆっくりとため息を漏らす。
「でも、そいつはお前のことを諦めてなかったんだな。もう三年以上経ってるのにな……」
「そうそう! 俺の方はもうとっくに忘れてた過去なのによ。それに、裕実や望の時みたいに愛情みたいなものもなかった気がする。簡単に言えば、そいつは遊び? 試しみたいなもんだったのかな?」
「でもさ、向こうからしたらお前に本気だったってことだろ?」
「まぁ、そういう事になるんだろうな……。『追いかけて来た』って言ってたくらいだからよ」
その時、部屋のドアからノックの音が響く。
その音に、和也はビクッと体を震わせた。
和也には、さっき会った人物がこの部屋にやってくることが予想できていたのかもしれない。和也は、仕事も普通にこなせる程度の経験があり、新しく入ってくる看護師の指導をする立場でもあるのだから。
和也がドアへ向かう気配がないので、仕方なく望は腰を引きずりながらドアへと向かい、ドアを開ける。
「初めまして、今日からお世話になります。本宮実琴と言います」
そう言って、実琴は望に向かって丁寧に頭を下げた。
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