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ー過去ー5

「俺の名前は吉良望……よろしくな……」  望はそう挨拶を交わしたが、ふと実琴の苗字に違和感を覚えたようだ。 「本宮……?」  記憶力が誰よりも優れている望。実琴の苗字を口にした途端、何か思い当たることがあったようだ。 「最近は裕実って名前ばっかり言ってたから忘れてたけど……裕実と同じ苗字じゃねぇのか?」  望は再び独り言を呟き、一人で納得した様子だ。その後、改めて実琴の方に視線を向ける。完全に同じわけではないが、実琴にはどことなく裕実に似た雰囲気があるように思えた。 「君って、兄弟いる?」 「兄弟……ですか?」  実琴は望の質問に少し考えるように天井を見上げていたが、次の瞬間には答えた。 「いませんよ。僕は小さい頃から施設で育っていたんで、兄弟はいませんよ」 「施設って?」 「僕が小さい頃に両親を亡くして、施設で育ったんです」  そう答える実琴。これで実琴と裕実が兄弟ではないことは明らかになったが、望は声や話し方が似ていることが気になっている様子だった。 「ねぇ、和也ー。僕、施設で育ったって話したことあったよね?」  実琴は、知り合いである和也に対して少し甘えた口調で振る。 「あ、あー、まぁな。確かにそんなことを前に聞いた気がするな」  実琴は和也に対しては知り合いということもあり、完全にタメ口だ。一方、裕実は誰に対しても年中敬語口調で話す。 「とりあえず、和也はどうするんだ? 本宮君を俺たちが引き受けるかはお前次第なんだからな……」 「分かったよ。俺たちがそいつのことを預かればいいんだろ? どうせ二、三週間の間だけだし、別に構わないけどな……。それに上が決めたことなんだから仕方ねぇんじゃねぇの?」 「まぁ、そういうことだよな……」  和也はもう実琴がここに来ることを受け入れているのか、さっきとは違い、いつもの和也に戻ったようだ。 「とりあえず、二、三週間だけど……荷物とかこの部屋に置くわけだし、入ってくれよ」 「はい!」  実琴は返事をすると、真新しい制服姿で部屋に入ってくる。  部屋に入ってきた実琴だったが、今は仕事中だからか、和也に近づきすぎることはしない様子だ。  望は実琴を案内し、荷物をロッカーに置かせた。

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