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ー過去ー6
それからは時間になると、いつものように三人は診察室の方へと向かい、診察室の準備を始める。
今回は望が指導ではないのだから、望の方は大人しく見ているしかない。後は和也の仕事だろう。
そして、とりあえず一日の仕事を終えると、望達三人は部屋へと戻ってくる。
和也は部屋の前まで来ると、隣りにある部屋を見つめ、
「今日、裕実は休みだったんだよなぁ」
そう独り言を漏らしたつもりでいたのだが、どうやら望は聞いていたようだ。
「明日には会えるんだろ?」
「寧ろ、今日会えるしな」
そう笑顔でいつものように答えてしまう和也だったのだが、今日は何故だか背後に寒気を感じ、和也はその寒気がした方へと視線を向ける。すると、
「和也、裕実って誰?」
今の和也には「自業自得」という言葉がお似合いだろう。
元恋人の前で現恋人の名前を出してしまったのだから。
「あー、それは……つまり、だからだな……」
そう言って何とかその場を誤魔化すと、和也は足早に部屋の中へと入ってしまう。そして、ソファへと腰を下ろすのだ。そこで足を揺らし始める和也。きっと今の和也は何かと頭を悩ませているのであろう。
そんなに落ち込んでいるような、イライラとしているかのような姿は滅多にしない和也。
和也にしてみたら相当イライラしている姿がうかがえる。
「和也……イライラしている位なら、本宮君に本当のこと話してしまった方がいいんじゃねぇのか?」
望のその提案に対して、ただ和也の方は足を揺らしているだけで、答えようとはしなかった。
「とりあえずさ、本宮君にお願いがあるんだけど……部屋の掃除しといてくれるかな?」
「はい!」
実琴はそう望の言葉を素直に聞くと、部屋の掃除を始める。
その間に望は和也の側で、実琴には聞こえない声で話を始めるのだ。
「アイツにはお前に裕実っていう恋人がいるってことを話しちまった方がいいんじゃねぇのか?」
「そんなことアイツに言える訳がねーだろ?」
「なら、イライラすんのやめろよ……。こっちまでイライラしてくるんだからよ」
「ゴメン……」
「それに、今日はいいんだけど、明日からはどうするんだ? 裕実に誤解されても知らねぇぞ……」
望の方はそこで一旦置くと、
「じゃあ、お前はアイツと裕実、どっちが大事なんだよ?」
「そりゃ、考える間もなく、そこは裕実に決まってるだろ!」
「ならさ……アイツには今は自分には恋人がいるってハッキリ言ってやった方が、和也のためにもアイツのためにもいいんじゃねぇのか?」
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