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ー過去ー8
「だから言っただろ? 実琴にこう言おうとすると、マイナスに考えちまって、そういうことを告げることができねぇんだよな」
「だけど、裕実の方はどうするんだよー。本宮君の態度を見てると、完全にまだ和也のことが好きみたいだしよ」
「そこはまだ考え中……」
それだけを望に告げると、今度は実琴の方に向き直して、
「実琴さ……悪いんだけど……。 もう、俺の方は突然のことで今日は動揺しちまってるんだよ。 もうちょっとだけ考えさせてくれねぇか?」
「分かったよ……。 そう言うってことは、今の和也には恋人がいるってことなんでしょう? こうやって僕と久しぶりに会ったって感じなのに、僕のこと抱きしめてもくれなかったしね。 それに、僕の方は和也のことを追いかけてこの病院で働けるようになったのに、僕のことは和也、全く忘れたことなかったのに……。 こう聞くと、和也にとって僕のことはもう過去の恋人としてしか見てないってことだよね?」
実琴の方はそこまで言うと、
「では、今日はこれで失礼します!」
実琴はそう言うと、更衣室の方へと消えて行く。
実琴が完全に更衣室の方へと消えると、望と和也はほぼ同時にため息を吐く。
「本宮君っていうのは案外、気が強いのかもな。 俺だったらあそこまで言えねぇしな」
「確かに望とか裕実とかとは逆な性格なのかもしれねぇな」
そう和也は笑みを零したのだが、その和也の言葉にムッとしたのは望だ。
「とりあえず、お前が撒いた種なんだから、何とかしろよ。 前にも言ったけど、プライベートと仕事としっかりと分けてもらうからな」
「望……それは前に俺が言ったセリフ」
望の言っていることを和也は分かっているのか分かっていないのか、ふざけたように言う和也に、望の方は拳を握り締め、
「お前なぁ、真剣な話してるのに茶化すなよな」
そう和也に怒鳴ると、いつもより強いど突きを和也にかます。
「少しは、それで頭冷やせ!」
「痛ってー!」
和也は頭を押さえながら望のことを見上げ、
「望……そろそろ、俺のこと分かってくれねぇのかな?」
和也がそこまで言ったと同時に、実琴の方は着替え終えてロッカールームから出てきた。とりあえず実琴の方は笑顔で、
「お疲れ様でしたー」
そう言って部屋を出て行った直後、
「痛ったー!」
という声が聞こえてきた。
「あ、ごめんなさい……。 まさか、ドアの前に人がいるなんて気づかなくて、大丈夫ですか?」
そう実琴の方はドア前で尻餅をついている人物に手を差し伸べる。
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